第六百六十一話
帝国大学学院祭の翌日、内閣府からうちに山本伯爵家から面会の申し出があるが受けるかと問い合わせを受けた。
子息には関わりたくないし、親はまともかもしれなかったが親に謝罪されても困るという事で申し出は拒絶する事に。今後関わらなければそれで良いので謝罪は不要と返答してもらった。
風の噂ではやらかした長男は山本伯爵家からとある地方の高野家という家に養子に出され、それに伴い帝国大学高等部から転校していったそうだ。
そして山本伯爵家長男と婚約をしていた女性、前田侯爵家の長女なのだが、現在進行形で両親と共に目の前に居たりする。
「この度はご子息にご迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳ありませんでした」
「いえいえ、御息女は山本伯爵家長男の被害者だと聞いております。頭をお上げ下さい」
深々と頭を下げた前田侯爵と侯爵夫人、侯爵令嬢に父さんが慌てて頭を上げるように言う。
「謝罪は受け取らせていただきます。と言っても、御息女には謝罪が必要な言動はありませんでしたが」
俺のフォローに安堵のため息をつく侯爵親子。実際、前田侯爵令嬢は正論で山本伯爵子息を窘めていたのだ。
「そう言っていただけると助かります。黒田様の手をお借りした甲斐がありました」
「同じ侯爵家であり学院の先輩である前田様の為ですもの、お力になれて良かったですわ」
山本伯爵家の申し出を断ったにも拘らず前田侯爵家の申し出を受けた理由はこれだった。前田侯爵家は黒田侯爵家に我が家への仲介を依頼したのだ。
前田侯爵は今回の件を知るとすぐに黒田侯爵家にそれを依頼したそうだ。度々話題になる俺や父さんの事は注目していて、家族構成等は調べておいたらしい。
なので舞が帝国大学中等部に通う後輩であり、同じクラスに黒田侯爵家の次女が居る事も把握していた。普通に面会を申し出るよりもクラスメイトである黒田侯爵令嬢からの口利きがあった方が良いと判断し現状に至る。
うちとしては交通事故冤罪の際に助力してくれた黒田侯爵家からのお願いを断る訳にはいかない。侯爵令嬢の想い人が俺という点は引っかかったが、言動はまともだったので面会を受けたと言うわけだ。
そして仲介した責任もあり同席するとの申し出も断れず、前田侯爵夫妻と前田侯爵令嬢に加え黒田侯爵令嬢が目の前に並んでいる。
「山本君も、何故あんな事を仕出かしたのやら。普通の少年だったのだがなぁ」
「お父様、恋は人を狂わせるのですわ。それだけ滝本様が魅力的だと言う事です」
「その通りですわ。私も許されるならば婚約を申し出たいものです」
前田侯爵が溢した愚痴に侯爵令嬢が答える。それに黒田侯爵令嬢もするが、俺はどう返して良いかわからず曖昧な笑みを浮かべるに留めた。
「こんな切っ掛けではあるが、我々としてはこの縁を繋いでいきたいと思っております。差し当たっては黒田家と連携して動く事をお許し願いたい」
「うちは華族ではなく平民なので、侯爵家の方々と縁を持つなんて過分なお話だと思いますが・・・黒田家と連携、ですか?」
前田侯爵の申し出に父さんは半ば混乱している。黒田家と連携ってどういう事だろう。笑みを浮かべて座っている黒田侯爵令嬢は何か知っているのかな?




