第六百五十七話
「こ、このように、手間や資金がかかるなどの理由で原産地で栽培が放棄された作物でも帝国では栽培に適した地を探して栽培されています」
このクラスは帝国の農業に関しての調査を行い、その成果を展示している。資料を説明している生徒は緊張の色を隠せていない。
「ふむ、そして原産地で全滅しても帝国が栽培する事で種として滅ぶ事を防いでいるのか」
「その通りにございます、皇帝陛下。例えばこの西洋梨のように、原産地の民ですら自国が原産の作物と知らぬ物も存在いたします」
ニックは学生の説明を満足そうに聞き、アーシャも質問こそしなかったが目を輝かせて展示されている資料を読んでいた。
「流石は世界に冠たる日本帝国よの。大変為になる展示であった」
「皇帝陛下にお褒めいただくとは・・・クラスの者達に必ず伝えます!」
感激の涙を流し、深々と礼をする説明当番の生徒に見送られて教室を出る。
「学生が作ったと思えぬ、良い展示ばかりであるな。出来れば全て体験してみたかったが・・・」
「陛下、それは流石に難しいかと。せめて事前に通達なり致しませんと」
展示の中には体験型の物も幾つかあった。手芸作品を展示していたクラスで小さい物を作ってみると言うものや、疑似ダンジョンなんていう物まであった。
ダンジョンと言っても前世の文化祭であった迷路とお化け屋敷を組み合わせたような物らしいのだが、説明を聞くと中々面白そうだった。
「そろそろ昼か。この出店とやらを見てみたいな」
「広場の屋台ですね。各所に通達、陛下はこれより中央広場外縁の屋台をご利用になられる。屋台周辺と喫飯スペースの確保を頼む」
陛下の気分次第で決まる行き先に先行して安全を確認する警視庁の護衛部隊は大変だろうが、そこは頑張ってほしい。ルートが決められていないので、前もって仕掛けをしておくという事が出来ないという利点もあるのだから。
「中尉殿、出店の調理品を陛下と殿下に提供するというのはリスクが高いのではなかろうか」
「それはスキルで完全に防げるので安心されたい」
護衛から伝えられた懸念を一蹴する。誰のどんなスキルかは明かさないが、相手もそこを聞き出そうとはしてこない。
治安維持活動に有効なスキル持ちの情報は重要だ。テロリストに渡れば真っ先に狙われてしまう。それを防ぐ為に警官は詳細を聞かないのだ。
「これは美味い。帝国の食はどれも美味い物ばかりだな」
「この値段で、と言うのがまた驚きですわ。帝国には安くて美味しい物が多過ぎます」
ニックとアーシャは焼きそばとフランクフルトという屋台定番の料理を食べているのだが、濃いめで庶民的な味付けも気に入ったようだ。
言い忘れていたが、これらの料理はアーシャの千里眼で有害な物が含まれていないかを確認済である。なので毒殺や中毒の心配は全く無い。
「午後から講堂で演奏があるのか。聞いてみるとしよう」
大学の文化祭で定番の、芸能人を招いてのステージがこの学院祭でもあるようだ。俺は警官達に陛下が午後講堂に行く事を伝達した。




