第六百五十四話
「練習しないと武器を扱えないように、パーティーも増員されるなら訓練が必要だ。大盾使いなら大盾でモンスターを足止めした時の、双剣使いなら手数に頼った攻撃を加えた時のね」
「それはどんなパーティーでも必要だと思いますが、要は中尉殿を加えた連携を訓練すれば良いという事ですよね?」
辻谷君の言う通り訓練をしてから実戦に出るというのは当たり前な話なのだが、俺の場合少し話が変わってくるのだ。
「そうなのだが、俺は着せ替え人形で複数の装備を使用できる。現状で双剣・斧槍・大盾だな。なので双剣を使った時の訓練・斧槍を使った時の訓練・大盾を使った時の訓練をする必要がある」
一人で三役をこなせるというのは利点だが、三役それぞれの武器を使用する場合の連携訓練を積む必要があるという事でもある。
「更には戦闘中に武器を持ち替える場合の訓練も必要だ。そうなると、慣れる為の訓練にかける時間はかなり長くなる」
「軍はその時間を惜しんだ、という事ですか?」
「そう、俺をソロで運用するならその時間は必要なくなる。だからキャンプの番という使い方をしつつ訓練も進めていくという方針になった訳だ」
実際は玉藻になった俺が三人に合わせる形で進んでいるのだけどね。それは言わないお約束。
「では、訓練が終わったら中尉殿も最前線に?」
「その予定だったのだがね。話に聞く大亀は俺が加わる程度で倒せるかどうか」
使うなら遠距離攻撃が出来て威力も高い斧槍だが、その射程よりも大亀の岩塊の方が射程が長い。こちらの間合いに入る前に岩塊と突進を食らってしまう。
そして大盾程度で止まる相手でもない。下位互換な落とし亀の甲羅など、いとも容易く粉砕されてしまうだろう。
双剣なんて言わずもがな。片手半剣を無理矢理双剣にしているので普通より攻撃力はあるが、甲羅がない四肢や頭にですら通用しないだろう。
「上の判断次第だが、俺も冬馬軍曹達も装備を更新しない限りダンジョン攻略は止まる事になるだろうね」
玉藻単独で先に出現するモンスターを調べ、その間に武具を集めて更新するというのが現実的か。三人が心折れずに続行するならばの話だが。
「滝本中尉の解説で理解したと思うが、武具や人材は投入すればすぐ運用出来るという物ではない。将来諸君が人事や装備を采配する立場になった時、それを忘れず指示を出せるようになってほしい」
いつの間にか入室していた教官が話を纏めてくれた。俺の周囲に集まっていた生徒たちは慌てて自分の席につくため散っていった。
「一人も欠けずに登校してきたようで何よりだ。このまま誰一人脱落せずに本科に進める事を願う。それと滝本中尉、関中佐から放課後情報部に出頭するようにとの伝言だ」
「了解しました。滝本中尉、放課後情報部に出頭いたします」
三人娘かダンジョンで何か進展があったのだろうか。取り敢えず行ってみて話を聞かなければ。




