第六百五十二話
「内部圧力、正常に上昇中!」
「温度変化、設定の範囲内です。稼働に問題ありません!」
「チャーシューは問題なさそうね。猪肉だから少し不安だけど・・・こればかりはやってみるしかないわ」
圧力鍋を見ていた先輩からの報告を受けた母さんが呟く。現在、母さんの総指揮で収穫物の調理が行われている。
「こら、一応勤務時間中だぞ。酒はご法度だ!」
「中佐、これは酒蒸し用の調理酒であります!」
調査の結果、新たに出現した山には豊富な食材が自生している事が判明した。今回採取されただけでも松茸・椎茸・栗茸・舞茸・平茸・金しめじ・なめこ・自然薯・タラの芽・ぜんまい・筍・アケビ・山苺・山葡萄などなど。
兎や鹿、熊や猪も確認されていて、先輩が丸々と太った猪一頭を血抜きと冷却が終わった状態で持ち帰った。
これらの食材は、これから食用として適しているかを総出で確認する事となる。「食べられる」事と「美味しい」事は別な為、確認しなければならない。
「陛下が釣られたキスの天ぷら、最高に美味しいです!」
「うむ、まだまだある。どんどん食べるが良い」
天ぷらに焼き物、鍋に加え圧力鍋を使った料理も作られている。流石に母さん一人では手が回らない為、母さんは総指揮となり皆交代で調理を行っている。
「自分で取ってきたキノコを自分で天ぷらにして食べるって、結構贅沢だよな」
「どこの山も持ち主が居るから、勝手に取ったら窃盗だからなぁ」
ニックが釣ってきた魚も普通に食べているけど、先輩方も漸く慣れたかな。あるいは開き直ったか。
「中佐、今回の調査は浅い部分だけです。本格的に調査する必要があると上申します」
「これは予定外だったからな。ちゃんと機材を用意して本格的に調べる必要はあるだろう」
予定外だったのに圧力鍋やら土瓶やらがすぐに用意されたのは何故?と突っ込んではいけないのだろう。
「松茸ご飯、炊き上がりました!」
「酒蒸しもオッケーです!」
災害時炊き出し用の巨大炊飯器で炊かれていた松茸ご飯が出来たようだ。お茶碗を持った先輩方が並んでよそっている。
「玉藻お姉ちゃん、迷い家さんは観光地化を目指してるのかな?」
「違うとは思うが、否定出来ぬのぅ」
迷い家がどこを目指して進化しているのか。それは俺にも分からない。多分宇迦之御魂神様にも分からないだろう。
「ダンジョン探索中のストレス軽減の為か、別の意図があるのか・・・成るように成るじゃろう」
もしも何かしらの意図があったとしても、それを止める事は出来ない。迷い家の進化を止めるなら、ダンジョンに入る事を止めなければならないからだ。
「川に海、山まで出来たら次は何かしらね」
自然を構成する物は一通り生まれたように思える。次に尻尾が増えたら何が起こるのやら。まあ、そんなの先の話だろうし今から考えても仕方ないだろう。取り敢えず今は増えた恵みを堪能しますか。




