第六百五十一話
「ごちゃ混ぜにはならんかったのぅ」
全員退出した後、一度閉じて再び開いた迷い家に入った俺達は、これまでの迷い家との違いを一目で認識出来た。
目算で標高六百メートル程の独立峰が四つ、果樹園の後方に聳えているのが嫌でも目に入るからだ。それらは同じような形だが色合いが全て違っていた。薄緑・濃い緑・赤と黄色・白に塗られた山々は、恐らく季節が違うのであろう。
俺を含め、皆は次は山が生成されるだろうと予想していた。そして、そうなった場合季節はどうなるだろうかと疑問に思っていた。
海では季節に関係なく海の幸をとる事が出来た。山もそうなるのか、どれかの季節に固定されるのか、期間で移ろうのか、外の世界とリンクするのか。色々と予想されていたのだが、正解は季節ごとに別個の山が生成されるであった。
「マリンスポーツに加えてウインタースポーツもし放題。これは増々迷い家に入り浸りたくなりそうだな」
「春と夏の山で山菜を採り、秋の山でキノコ狩り。冬の山でスキーやスノボ。最強のリゾート地だな」
ニックが迷い家での引きこもり宣言ともとれる発言をしているが、気持ちはわかるので否定しない。父さんが言う通り、山の四季を自由に満喫できる最強のリゾート地だと言える。
「中佐、これは調査用の機器を追加する必要があると進言します!」
「うむ、これは冬季装備が必要だな。秋になろうかというこの時期に冬季装備を申請なんて、絶対突っ込まれるな」
冬の山を調べるならば、防寒対策は必須だろう。雪山用の装備なんて常備していないだろうけど、この季節に装備課から支給してもらうのに理由をどう説明するのやら。
「冬は後に回すとして、春と夏はそれぞれ山菜の予習をした者が入れ。秋はキノコの予習をした者を中心に動け」
「籠を忘れるなよ。キノコ班は採れた場所の記録を忘れるなよ!」
先輩方、調査というより山菜狩りやキノコ狩りに行こうとしてないか?
「野生動物が出現する事もあり得る。武器を携帯するように」
浮かれる先輩方に対して関中佐が大きな声で注意した。流石は管理職、レジャー気分を戒めて危険もある調査だと思い出させている。
「いいか、血抜きをした後の冷却を忘れるなよ。ダンジョンのレアドロップと違い、後処理が天と地ほども味を変えるのだからな!」
「分かってます。水場が無ければ隣の冬山から雪を運んで冷やします!」
・・・前言撤回。中佐も少々浮かれているかもしれない。
「山菜やキノコが採れるなら天ぷらが良いかしら」
「よし、それなら白身の魚を釣ってこよう。行こう、ニック!」
「じゃあ、私達は貝や海老を獲ってくるわ。アーシャちゃん、行くよ!」
情報部員が山の幸を回収し、滝本家とロマノフ家が海の幸をとってくる。そんな役割分担が話し合う事もなくスムーズに決定していた。
「これは連携が取れていると喜ぶべきなのかのぅ」
「玉藻様、細かい事を気にしたら負けですよ。楽しみましょう」
まあ、植生の調査にもなるし構わないと言えば構わないのだけどね。これ、今上陛下が知ったら絶対に来たがるよなぁ。




