第六百四十五話
「ほう、面白い事を言うな。どうやら貴社は我々が提供する映像に不満があるようだ。ならば使ってもらわなくとも構わぬよ」
「なっ、使わないなんて言っていないでしょう!ただ、もっと映える映像が欲しいと言っただけです!」
そこで引っ込んでいれば比較的浅い傷で済んだものを、件の記者は反論してしまった。まあ、そこで黙る程空気を読めるなら先の発言なんてしないか。
「ならば自分で撮りに行け。今後貴社は我々の映像を使う事を禁止する」
「横暴な!そんな権利が情報部にあるのかよ、広報部じゃあるまいし!」
「これらの映像は我々情報部の部員が今後の攻略に役立たせる為に撮影してきた物だ。映像の全ての権利は我ら情報部に帰属する」
マスコミは勘違いしているようだが、これらの映像は広報の為に撮影した物ではない。攻略の為の資料として撮影した物をついでにマスコミに提供するだけなのだ。
「当然、映像の転載についても我らの許可が必要だ。もし他の会社が彼の会社に映像を回すような事があれば、即座に法に則った制裁を下す事となる」
「現状、この二種のモンスターの映像は我らが撮影した物以外存在しない。無断で使用すればすぐに露見する事を忘れるなよ」
鈴置中将が他の会社にも釘を刺し、関中佐がトドメを刺した。これであいつの会社は新種のモンスターの映像を使う事は出来なくなった。
各紙はこの会見の内容を一面を使って大々的に報道するだろう。当然、新種のモンスターの映像はどこの紙面でも大きく扱われる筈だ。
そんな中、一社だけモンスターの映像無しの紙面があったら・・・逆にかなり目立つかもしれないな。それが売り上げに貢献するかは別の話だが。
「我々にダンジョン攻略をしろと言うのか、それは陸軍の仕事だろう!」
「そう、ダンジョンの管理が我々の仕事だ。諸君らに記事のための写真を提供する事が仕事ではないのだよ」
苦し紛れの糾弾も、鈴置中将に正論で躱されてしまった。そう、彼らへの情報提供はオマケであり、成さねばならぬ使命という訳では無いのだ。
「記事の為に情報を集め、補完する為の映像を入手するのは君達記者の仕事だろう?それを我らに押し付けて、自分達は楽しようという考えにしか見えないがどうなのかね?」
関中佐の問いに問題の記者も他の記者も答えを返す事が出来ない。「いいえ」と答えれば嘘になるし、「はい」と答えれば「では、次から我らは情報提供しないから自分達で収集するように」と言われかねない。
マスコミがスクラム組んで反陸軍キャンペーンを張るぞと脅すなんて手法もこれまではまかり通ってきたが、今回は相手が悪すぎる。
破竹の勢いで成果を上げ、世界記録の更新まで成し遂げた昇竜の如き勢いの陸軍と敵対すればマスコミが潰されかねない。
「陸軍の皆様、大変失礼いたしました。この記者は退出させますので、どうか会見の続きをお願いします」
空気を読まない記者は他の記者により強制的に部屋から叩き出された。中佐はまだ言い足りない様子だったが、会見は続けられたのであった。




