第六百四十二話
翌朝、起きぬけに金縛り体験をした俺は朝食をとり一階層を目指す。ちなみに、俺を金縛り状態にしていたのは抱きついた上に頬擦りまでしていたアーシャである。
今更一桁階層で梃子摺る筈もなく、順調に一階層に到着し、念の為地上と二階層を繋ぐ最短ルートから外れる。
三人娘を呼び優に戻ると地上に戻る。地上では関中佐と鈴置中将が待っていた。今日の午前中に戻ると昨晩連絡をしておいたが、まさか多忙な二人が出迎えてくれるとは思わなかった。
「全員無事で何よりだ。今回の探索は大変だったな」
「中佐から話は聞いた。三十四階層到達は世界に誇るべき偉業だ、良くやってくれた。今日と明日は休暇とする。ゆっくり休んでくれ」
「「「「ありがとうございます」」」」
中将閣下からのお言葉に四人揃って礼を言う。言われてみれば、ダンジョン到達階層世界記録を二階層も更新したのだ。中将閣下自ら出迎えるのも納得するしかない。
「すまんが中尉にはもう一仕事頼む。軍曹と兵長は装備を外して休暇に移るように」
三人娘は軽鎧や武器を外す為に別室へ移動し、俺は中将と中佐に連れられて違う部屋に通された。
「本来ならば世界記録更新を大々的に公表する所ですが、三人への負担を鑑みて発表は明後日としました。今日と明日はゆっくりお休み下さい」
「了解です。皆は迎賓館に戻ってから出てもらいますか?」
「そうですね、その方が安全ですからお願いします」
世界記録を二階層更新という快挙に舞い上がっているのか、鈴置中将は滝本優の俺に敬語を使っている。まあ、ここには三人しかいないし大丈夫だろう。
「中尉、明後日の会見後話したい事がある。時間を空けておくように」
「そちらも了解です。例の件、ですね」
会見後に時間を取るなんて、本来ならば言われずとも良い事柄だ。俺は中佐の部下なのだから、そうするのが当然なのだ。
中佐がそれを態々口にしたのは、今目の前に居るのは玉藻ではなく一介の中尉だと鈴置中将に認識してもらう為だった。
「コホン、中尉もご苦労だった。まずはゆっくり休んでくれ」
「表にはマスコミが張っている。裏の通用口にうちの車を待機させているからそれを使うように。三人も裏から出た筈だ」
「ご配慮ありがとうございます。それでは失礼します」
本当なら三十四階層での件で話し合う筈だったのだろう。しかし、鈴置中将が浮かれているので中佐の判断で明後日に延期という感じだな。
多分戦利品の搬出もやる予定だったのだろうと思うけど、それも後日のようだ。まあ、急がなければならない事ではないし迷い家に保管していて不都合は無いから構わない。
部屋を出た俺は中佐の指示に従い裏口から陸軍指し回しの車で迎賓館に戻った。滝本家に貸し出されている部屋で迷い家から皆を出す。
皆も無事に迎賓館に戻った事で今回の攻略は無事終了となった。三人の精神状態を考えると無事と言えるか微妙だが、今は考えないようにしよう。
現在の装備ではあの亀を倒せないのだし、暫くダンジョン攻略は間引きのみとなるだろう。その後の事は三人の決断次第、かな。




