第六十四話
十四階層への道程で何度かコボルドの襲撃を受けた。しかし感覚が鋭い玉藻の体なら近付く音や気配で察知出来る為奇襲とはならず、素早さは火鷹に劣り体力でオークに劣るコボルドは容易く燃やせる雑魚でしかない。
通常の火魔法を使うと木々に引火するので使用を躊躇う所だが、狐火は俺が望んだ物だけを燃やす事が出来る。なので遠慮なく狐火で丸焼きにしていった。
十四階層は草原フィールドだった。この階層に出てくるモンスターは跳び百足という昆虫系のモンスターだ。巨大な百足なのだが、接近すると器用に跳び上がり巻き付いてくる。
ここは草原フィールドだったが、洞窟や迷宮だった場合天井から落ちてきて巻き付くという厄介な攻撃もしてくる難敵だ。
百足のイメージの通り外骨格は硬く、剣で戦う場合関節を狙わないと有効なダメージを与えられない。魔法か打撃武器が欲しい相手だ。
警戒しながら歩いていると、早速一匹の跳び百足が近付いてきた。飛び掛って来た百足を避けつつ足に斬りつける。鉄扇の外縁に付けられた刃の切れ味は跳び百足の外骨格を易易と切り裂いた。
数本の足が落ち、跳び百足は大きな牙をガチガチと鳴らし威嚇してくる。しかし鉄扇で斬れると判明した以上怖い敵ではない。
正面から牙で噛み砕かんとしてくる跳び百足に何度も斬りつけ、牙を斬り頭部を切り裂いていく。頭部が切り傷でズタボロとなり、跳び百足は魔石へと変化した。
次の獲物を探しつつ十五階層を目指す。出てきた跳び百足には狐火を二発放ち燃やしていく。レアドロップの百足の甲殻は防具の材料として高値で売れるのだが、ここでも物欲センサーさんが仕事をしたのか得られなかった。
そして次の十五階層。フィールドは荒野で見通しは悪くない。ここで出てくるモンスターはサラマンダーだ。名前のイメージ通り火魔法を使うトカゲである。
十六階層に向かいながら戦闘を、と思ったが、その前に腹拵えをしておこう。ダンジョンの中は常に真昼なので時間の経過がわかりにくい。
迷い家の畑で胡瓜とトマトを収穫。ステーキは連続で食べたので、今回はしゃぶしゃぶを選択した。軽く熱が通ったお肉はタレを付けなくとも十分な美味しさを持っていた。
もっと食べたいという欲を抑えて迷い家から出る。これから運動をするのに腹一杯にするのは良くない。
十六階層への道を辿っているとサラマンダーが現れた。トカゲと言ってもワニより少し大きい位の大きさなので迫力がある。
効かないだろうと思いつつ、確認のため狐火を一発放つ。顔面に命中するも効いた様子はなく、お返しとばかりに火の玉を放ってきた。こちらも広げた扇子で防ぐ。互いに飛び道具は無効となる為、戦いは接近戦に移行した。
短い足を器用に動かし迫るサラマンダー。悲しいかな火魔法が効かないとなれば残る攻撃は噛みつきと尻尾による打撃しかない。
渾身の噛みつきを右に動いて躱すと、ムチのような尻尾が振るわれた。閉じた鉄扇で迎撃し叩き落とすと、隙だらけの胴体に踵落としをお見舞いする。
背中はそこそこ硬い筈なのだが、ダメージが内臓まで通ったようでサラマンダーは動きを止めた。蹴り上げて宙に舞ったサラマンダーの頭部に閉じた鉄扇を振り下ろし地面に叩き付けると呆気なく魔石へと変化した。
狐火が通用しなくともまだソロで戦えそうだ。もう少しだけ潜ってみるとしよう。




