第六百三十一話
「玉藻様、舞ちゃんをうちのパーティーに入れられませんかね?」
「そう言いたくなる気持ちは分かるが、多分無理じゃろうな」
翌朝、アーシャにこの階層の地図を作成して貰う為に舞と共にダンジョンへ出て貰った。そこにスリープシープが突進してきたのだが。
舞の慣性制御により動きを止められた後キューブの火魔法で羊毛を燃やされ、風魔法で羊毛を刈られ、水魔法と土魔法でガンガンとダメージを蓄積されていった。
神炎だけで羊毛を燃やすより短い時間でスリープシープは羊毛へと変化した。それを見ての冬馬軍曹のセリフがあれである。
俺は空歩で上空に上がり、付近にスリープシープがいない事を確認した。図体がデカい上に真っ白なので見落とす心配はほぼない。
「皇女殿下、頼むぞえ」
「舞ちゃんだけじゃなく、私も役に立つと証明してみせます。では、やりますね」
片手にコピー用紙を持ったアーシャが目を閉じて動きを止める。視点を上空に飛ばしたのだろう。しかし一分もかからずに目を開くと、手に持ったコピー用紙を差し出してきた。
「はい、玉藻お姉さん。こっちが今いる渦よ」
コピー用紙には上空から見たこの階層が精密に写されていた。階層間を移動する渦が光って見えるので位置が分かりやすい。
「こっ、これはこの階層?一体どうやって?殿下は筆記用具なんて持っていなかったのに」
「私のスキルは宝箱を探すだけでなく、こうして階層全体を見通した上に転写も出来るのです」
胸を張り、どや顔で説明するアーシャ。自慢げな顔も微笑ましくて可愛いと感じてしまい、思わず頭を撫でてしまった。
「やはりアーシャのスキルは凄いのぅ。あてもなく渦を探して彷徨ったらどれだけの時間を食うか分からぬ」
「えへへ、もっと撫でて下さい」
子猫のように擦り寄るアーシャの頭をこれでもかと撫でまくる。つい身内しか居ない時のような言動をしてしまったが、三人娘はアーシャ謹製の地図に夢中で気付いていなかったようだ。
「玉藻様、皇女殿下をうちのパーティーに入れられませんかね?」
「だから無理じゃて(笑)」
冬馬軍曹の気持ちはよく分かる。舞とアーシャが加われば、未踏の階層でも一分で地図が作成されモンスターには各種属性の魔法が連続で放たれるのだ。
「皇女殿下がダンジョン探索の最前線に立つなど、余程の事が無い限り宮内省と外務省が認める筈がなかろう」
今回はその余程の事が起きたのでアーシャと舞がここに居るのだが、こんな事は何度も起きるものでは無いし起きたらたまらない。
「玉藻様、次の階層でも皇女殿下に地図を作成してもらうのですよね?」
「勿論そのつもりじゃ。次に潜る時は殿下がおらぬ可能性が高いでの」
と言うより、次も同行する可能性はゼロに近い。なので今回は潜れるだけ潜ってアーシャに地図を作っておいて欲しいというのが本音だ。
自分で地形を確認しながら少しづつ地図を書いていくなんてゲームだけにしてほしい。G◯◯gleさんが地図作成に使ってる車、借りられませんかね?
 




