第六十三話
「ついつい予定を変更して牛さん狩りに熱中してしまったが、さらなる延長も考えるべきだろうか?」
牛さん殲滅に情熱を傾ける事数時間。幾つかの牛肉確保に成功した為迷い家に帰ってきた。放り込んでいた魔石とお肉をビニール袋に入れ家屋にしまう。
早速牛肉を切り分けて油を引いたフライパンに投入するとジュウジュウという音が食欲を刺激する。取り敢えず塩と胡椒を振っただけのシンプルな味付けを行った。
ミディアムに焼き上げて皿に乗せ、テーブルに運ぶ。お茶碗に白米を盛っていざ実食。・・・するとあら不思議。気付くと切り分けていた牛肉が半分に減っていました。
どこからかじっと見られているような感覚を覚えた為、追加でもう一枚のお肉を焼く。焼き方は・・・あっ、ミディアムで良さそう。
お皿に乗せた熱々のステーキを持って家から出て社に向かう。お社の前に皿を置くと瞬時に消えて無くなりました。それと同時に脳裏に響く歓喜のお声。
満腹になり増した眠気に抗えず、今日は就寝する事にした。明日こそは十二階層に進出しよう。昼夜逆転しているから厳密に言えば今晩なのだが、細かい事を気にしてはいけない。
充分な睡眠をとり再びステーキを焼く。今回はガーリックソースで味わう。それにより起こる更なる牛狩りへの欲求を抑え込み十二階層へと向かった。
このダンジョンの十二階層は迷宮になっていた。人工の通路が枝分かれして侵入者を迷わす。そんな通路の曲がり角からこの階層のモンスターが現れた。
姿を現したのは、一羽の鷹だった。高速で突っ込んで来るのだが突撃牛の迫力に比べれば脅威に感じない。冷静に避けつつ扇で一閃し、敢え無く魔石へと変化した。
「十一階層と地形が逆ならばなぁ」
思わず魔石と化したモンスターに同情してしまう。こいつの名は火鷹という。高速で大空を飛び、降下しながら火魔法を放つ強敵なのだ。
俺が空歩からの狐火で無双しているように、空から一方的に火の玉を撃ってくる厄介極まりない強敵・・・の筈なのだが、如何せん地形が悪すぎる。
天井のせいで高度が取れない為一方的な狙撃は不可能。しかも入り組んだ迷宮ステージな為速度を活かせずただ突っ込む事しか出来ない。
火の玉を撃ったところで真正面から撃たれた火の玉など躱すのは容易く、牽制程度にしかならない。
落とし亀、オーク、突撃牛と重量級のモンスターを相手にした直後に高速遠距離型の火鷹を相手にしなければならないという鬼畜仕様。
・・・の筈なのだが、この地形では単なるカモにしかならない。このダンジョンに生まれた火鷹はダンジョンを呪っても許されると思う。
とはいえ、モンスターはモンスターなので遭遇した火鷹を切り捨てつつ十三階層へと向かう。狐火は躱されてしまうので、すれ違いに斬りつける方が倒しやすい。
哀れな鷹を斬りつつ進み、次の十三階層に到着した。ここは森林になっていて視界が遮られる。出現するモンスターを考えると少々厄介かもしれない。
背後に気配を感じ、振り向きざまに扇を振るう。背中から俺に突き立てられようとしていた爪が腕ごと切られ地面に落ちた。
「グウッ、グルルルル・・・」
右腕を失い、憎しみを顕に俺を睨む直立した獣。ファンタジーで有名な敵、コボルドがこの階層のモンスターだ。パワーは青毛熊やオークに劣るが、気配を殺し素早く接近し爪を突き立てる戦法に苦しめられる探索者は多い。
睨み合いに痺れをきたしたコボルドが襲いかかる。振るわれた左腕を避けて喉を切り裂く。体力は然程ではないコボルドにはそれで充分な致命傷となった。




