第六百二十八話
「玉藻様、お疲れではないですか?」
「タンデムは後ろの方が疲れると聞いておったが、思ったより疲れぬな」
俺と井上兵長はバイクに乗って二十六階層を爆走している。バイクでデンシカを無視して走った方が楽なのでは、という久川兵長の提案によるものだ。
デンシカの戦いは遠距離からの雷撃なので、相手にせずバイクで走れば追いつかれる事もない。言われてみれば合理的な方法だ。
と言う事でそれが採用となったのだが、俺一人で行く事に三人が反対した。三人の誰かが運転し、俺は後ろに乗るよう言われたのだ。
運転が上手いとはいえ運転歴が浅い上免許を取得していない。運転しながら雷撃を監視して躱し、二十七階層を目指すのは負担が大きいとの主張だった。
デンシカが追ってきた際に神炎で牽制する必要もあるので、俺は後ろに乗るべきと言われれば反論出来ない。
俺が二人乗りを了承すると、三人の間で誰が運転するかの議論となった。そんな言い合いするなら単独で走るほうが早いと叱りつけると、一番出番が少なかった井上兵長に決まったのだ。
「兵長、一時の方向にデンシカじゃ」
「了解です。しっかり掴まっていて下さい!」
兵長は速度の増減を巧みに活かして雷撃を躱す。結果、俺達は一撃も食らわずに二十七階層への渦へと辿り着いた。
二十七階層のモンスターはリザードマンだ。俺と冬馬軍曹で隙を作り久川兵長の戦鎚で大ダメージを与える。
一度井上兵長の杖も試してみたのだが、撃てるようになってから溜めすぎになるまでの間に射線を開けて撃たせるのが予想以上に難しい。
接近戦の最中に攻撃を止めて場所を移れば隙を晒す事になる。そしてリザードマンは知能も高いので、あからさまに射線を通そうとすれば何かあると察せられて躱されてしまう。
「戦鎚のように溜めなしで攻撃出来れば良いのですが」
「そのデメリットが無ければ市場に出なかっただろうな。ドジっ子属性を付与されるよりマシだろう」
武器の更新が出来なかった冬馬軍曹にこう言われてしまえば井上兵長は何も言えない。恐らく冬馬軍曹は三十二階層以降は牽制役となるだろう。
そんなこんなで二十七階層も突破し、昼食を兼ねて休憩をとる事にする。流石に二十台後半の階層は突破するのに時間がかかる。
「ダンジョン攻略中にこんな美味しい物食べて良いのでしょうか」
「これ、他のダンジョン攻略部隊が知ったら暴動起きても不思議じゃないですよね」
酢豚と餃子、炒飯を食べながら冬馬軍曹と井上兵長が不穏な会話をしている。一度だけ彼女らと経験した普通のダンジョン攻略を思えば否定は出来ないな。
「これは妾と潜る者のみの特権じゃな。まあ、ダンジョンを完全に制覇すれば何かが変わるじゃろう。それまで辛抱して貰うしかないのぅ」
ダンジョンの設定を変えて途中の階層に転移出来るようになれば少しはましになるだろう。一つ一つ変える必要があるから膨大な時間がかかるだろうけど、文句はイタズラ好きの神様に言ってほしいな。




