第六百二十七話
「魔導砲エネルギー充填八十・・・九十・・・百二十、撃てぇ!」
艦首に装備された光り輝くドリルから放たれた光の帯が、巨大砲塔から主砲を撃たんとしていた巨大戦艦を穿つ。
「敵戦艦爆沈!艦長、やりました!」
強敵を討ち果たした万能巡洋艦畝傍の艦内は歓喜の声に包まれた。
「おお、万能巡洋艦畝傍を見ておったのか」
「あっ、お帰りなさい玉藻お姉ちゃん。これ、情報部の人が置いてくれたみたいなの」
どうやら情報部の誰かがレーザーディスクの再生装置とソフトを置いてくれたようだ。恐らく前回の戦利品を搬出してもらった際に搬入したのだろう。
万能巡洋艦畝傍は、仏国で建造された巡洋艦畝傍が嵐により漂流。流れ着いた島で発見した過去の超文明を利用して魔改造され、日本帝国の敵と戦っていくという大ヒットアニメだ。
「海軍の艦が活躍するというのが難点ですが、こうして見ると面白いですね」
「あの魔導砲、陸軍で再現出来ませんかね」
「光子魚雷全管装填、砲雷撃戦用意!って私も言ってみたいです」
冬馬軍曹に久川兵長、井上兵長も気に入ったようだ。この世界のアニメや映画は前世と全く違うが、名作や良作もある。
お昼ご飯をスズキの奉書焼きとナスの揚げ浸しで食べ、午後も一人でひた走る。少し早めだが二十五階層への渦に到着し迷い家に戻った。
「今日は二十五階層への渦までじゃ。スレイプニルは撒くのに時間がかかる故、二十六階層への渦まで行くと遅くなるでな」
「了解です。足が多いだけの馬など蹴散らして進みましょう」
出会った当初は気後ればかりしていた冬馬軍曹から頼もしい言葉が飛び出した。一日留守番だったので逸っているのだろうか。
そう思ったのは要らぬ心配だったらしい。翌日二十五階層に出た冬馬軍曹は気合が入りつつも冷静に戦いを進めていった。
「切断まではいかなかったか、頼んだぞ久川!」
「了解です、食らえ!」
冬馬軍曹に爆走してきたスレイプニルを紙一重で躱した冬馬軍曹はすれ違い様に足を剣で薙いでいった。切断までは至らなかったが決して浅くない傷を負ったスレイプニルは倒れ込み、後方で待機していた久川兵長がその頭に戦槌を振り下ろす。
ステータスを速さに振っているスレイプニルが耐えられる筈もなく、光とともに魔石へと変わっていった。
「私の出番がありません」
「相性が悪いのじゃ、二十八階層まで待つしか無いのぅ」
井上兵長の杖は威力は申し分無いのだが撃つまでに溜めが必要だ。素早いモンスターとは相性が悪い。
次の二十六階層のデンシカも素早いので不向きであり、二十七階層のリザードマンはスレイプニルやデンシカ程速くはないが遅くもない。
なので彼女の出番は二十八階層の鉄カブト戦という事になる。奴は防御力と体力が高いので、井上兵長の杖が活躍してくれるだろう。
その後も冬馬軍曹か俺が足を切り転倒させて久川兵長がトドメを刺していった。神炎さんは避けられて当たるまで時間がかかるので、開いた扇で足を切る方が早かったのだ。
そんなこんなでトラブルもなく二十六階層は突破出来た。次の二十七階層もこの調子でいきたいものだな。




