第六百十七話
「玉藻様、この布ですが・・・」
「おお、忘れておったわ。それはレイスを倒した時にドロップした布じゃ。鑑定しようと思っておって放置しておったわ」
搬出をしていた先輩が手にしていた布を見て、また鑑定するのを忘れていた事を思い出した。
「玉藻様、その布は回収させて貰ってよろしいですか?」
「うむ、構わぬ。妾が持つより情報部所有の方が有効に使えよう」
関中佐が欲しがっている。ならば彼はその効果を知っていて、その上で情報部に譲ってくれと言っているのだ。それなら渡すのが最善だろうし、その効果を知る必要も無いだろう。
「中佐、搬出作業は終了しました」
「ご苦労。物は手筈通りに運んでくれ」
トラックは格納庫から走って行き、俺達が乗ってきた黒塗りの高級車だけが残された。
「玉藻様、会見について陛下にも説明をしたいのですがよろしいでしょうか?」
「ふむ、皇帝陛下も否とは言わぬじゃろう」
俺は関中佐を伴って迷い家に入り、入り口を消す。これで誰も入って来る事は出来ない。居間に行くと全員がお茶をして待っていた。
「お邪魔します。皇帝陛下、今度開かれる会見についてご説明にあがりました」
「予定されていなかった会見だな。話を聞かせてくれ」
事の発端は、英国が欧州各国にせっつかれた事だった。ロシアの地を逃れ日本帝国に亡命した皇帝陛下と皇女殿下は、海外の報道陣に姿を見せていない。
何故陛下は日本帝国の報道陣の取材を受けて欧州の取材を受けないのか。日本帝国と唯一の同盟国である英国はこの状態をどう思っているのか。そう詰められたそうだ。
そこで英国大使は、まず日本外務省に対して保留になっていた玉藻との面談を求めた。陸軍情報部から頑なに面談不可と言われていた外務省は相当困ったらしい。
しどろもどろな外務省に英国大使は代わりに、欧州報道によるロシア皇帝陛下と皇女殿下の会見を要求した。
神の使いである玉藻様よりは、宮内省預かりの皇帝陛下に対して「お願い」する方がマシ。そう判断した外務省は、会見の実現に向けて動く事を約束。宮内省と交渉した。
宮内省も欧州各国を無下にするのは良くないと判断をしたのか、皇帝陛下の護りを担当している陸軍と折衝。結果、急な日程だが会見が決定したらしい。
「会見は外務省主催という事で、現場の警備も外務省が手配します。しかし、万が一の時の為に陸軍から女性士官を近くに配置する事は了承させました」
「欧州の報道機関が集まる場所を、護衛の素人な外務省が仕切るというのは不安じゃな」
「ええ。なので我々の方針としましては・・・」
中佐が語った護衛計画をニックとアーシャが承認した。外務省がどんなセキュリティを用意するのか知らないが、何かあってもニックとアーシャの身を護る事は出来るだろう。
「滝本家にも迷惑をかけてしまいますな」
「アーシャちゃんを護るのは、舞の意思でもあるの。だから、中佐さんが気に病む事はないわ」
護衛に参加する事となる舞が中佐を庇いつつ気勢を上げる。護衛に俺と舞が加わる以上、ニックとアーシャには掠り傷一つつけさせない!
 




