第六百十五話
作者「冬馬軍曹の階級を間違えて伍長と記載しておりました。後ほど確認と修正を行います。指摘していただいた読者様、ありがとうございます」
優「作者、暑さで頭がボケたか?」
否定出来ない・・・
翌日、俺は朝から一人でダンジョンを駆け抜けた。モンスターの討伐は必要最低限、戻る事を最優先とした。
一番厄介だったのは七階層だ。殆どのモンスターは空歩で空を駆ければ無視できる。しかし、レイスは相手も飛んでいるので相手せざるを得ないのだ。
振り切る事も出来なくはないが、下手をすればトレインからのスタンピードを誘発してしまう。それだけはやってはならない。
倒すだけならば神炎さんで一発だが、落ちた魔石を回収するのが手間になる。放っておいても良いのだが、折角出た物を回収せずに帰るのも気が引ける。
「我ながら貧乏性じゃのぅ・・・これは布?そう言えば、行きにもこれが出ておったな」
神炎さんで焼滅したレイスが、魔石にならずに一枚の布になって落ちていた。これも鑑定する必要があるな。すっかり忘れていた。
一階層まで無事に戻り、冬馬パーティーを呼ぶ為に迷い家に入る。丁度昼時なので、昼食を食べてから地上に出よう。
「玉藻ちゃん、あの傘貰う事は出来ないかしら?」
「交渉次第じゃが・・・何に使うのじゃ?」
母さんはずっと迷い家に居たので、傘を使う事は無かった筈だ。でも、欲しがるからには何かあった筈。一体何があったのか。
「お昼はトンカツなのだけど、油跳ねが酷かったの。それで、傘が液体を弾くというのを思い出して使ったらこっちに跳ねなくなったの」
言われてみれば、天ぷら油も液体だ。かかった液体を弾く傘の効果は適用されるだろう。効果範囲が広いから、傘をさして横に置いておけば手が塞がれる事もない。
「揚げ物全般で活躍しそうじゃな。引き取れるかどうかは五分五分かのぅ」
傘は武具ではないが、相手によっては有効な防具として使えそうだ。それをどう判断されるかで引き取れるかどうかが変わるだろう。
「玉藻様、お疲れ様でした。冬馬軍曹は残念だったな」
「冬馬軍曹以下三名、帰還致しました。剣に関しましては、これも運だと諦めております」
一階層から地上に戻ると、関中佐と先輩一人が待っていた。中佐の労いに冬馬軍曹が敬礼しながら応えた。
「今日より三日間、冬馬パーティーは休暇とする。玉藻様はご足労ですが情報部まで同行をお願いいたします」
「うむ、協議したい事もある故願ったりじゃ」
ここで冬馬パーティーとは分かれる事になる。彼女らはこの後、伊香保温泉で休養してから帝都に戻るらしい。
俺と関中佐は後部の窓にスモークが貼られた黒塗りの高級車に乗り込む。運転は関中佐と共にいた先輩なので、車内でも機密を気にせず話す事が出来る。
「今回の探索、成果は予想以上ですな。特に鑑定アイテムは助かります。あれは幾つあっても足りないですから」
「使える物が入手できて安堵しておるよ。戦利品には使えそうで使えぬ物もあったでな」
あの片手剣もそうだが、緋緋色金の鎧もそうだ。いくら防御力が高くとも、着用して動けないのでは意味がない。
さて、それでは使えなさそうで使える物の譲渡交渉をするとしよう。キューブは成算高そうだが、傘は譲ってくれるだろうか。




