第六百十三話
迷い家に戻ったので、ついでに昼食を取る事になった。オーク肉と夏野菜のカレーを食べていると、スマホにメールが着信した。
「ふむ、明日には帰路につく事になるようじゃ」
「玉藻様、予定ではもう少し大丈夫だったはずでは?」
「皇帝陛下と皇女殿下に会見を開いてもらう事になったそうじゃ。早く戻った方が良さそうじゃが、帰りは妾が走れば良いじゃろ」
このまま戻るのでは冬馬伍長が不憫過ぎる。次と、出来ればその次の階層の宝箱を捜索させてもらう。
「この階層は三個あるようです。場所が結構離れてますね」
「ならばこの階層で終わりになりそうじゃな」
急いで十二階層に入りアーシャに宝箱を探してもらった。ここはあまり探索されておらず、三個も残っていた。
「流石の舞ちゃんも取り零しますね」
「半分以上落としている現状で十分凄いですよ」
ここでも舞がキューブで迎撃をしているのだが、約半数は外したり致命傷とならない状態になっていた。
「使いだして数日のキューブで素早い火鷹に当てられるだけでも普通じゃありません。と言うか、伍長だったら火鷹を視認してからパズルを組んで攻撃出来ます?」
「久川、そんなの無理に決まっているだろう」
火鷹は突撃牛よりも素早い上に体の大きさが格段に小さい。その上空から急襲してくるので、視認してから襲撃されるまでの時間が短い。
的が小さいので当てにくいのに加え、火鷹の回避が巧妙なのもあり舞の攻撃は三割から四割が外れるという事になっていた。
「むう、外さなくなるまで修行したい。玉藻お姉ちゃんは百発百中なのに・・・」
「舞、妾の神炎には追尾機能もついておる。外れないのはその為じゃよ」
キューブの魔法が直進しかしない初期のミサイルだとすれば、神炎さんは熱線追尾にレーダー追尾、画像解析追尾まで付いた超高級最新式ミサイルとなる。
何かで見たのだが、複合誘導システムを積んだフェニックスミサイルは一基で億を超える値段だったとか。
そうこうしているうちに一つ目の宝箱に到着した。中身は金の延べ棒一本だった。
「武具やアイテム以外もあるのね」
「ハズレと言えばハズレじゃがな。じゃが、ひのきの棒やこん棒よりはまだマシじゃよ」
暖炉の焚き付けくらいにしかならないが、現代において暖炉がある家など殆ど無い。別荘や大きな邸宅で付いている家が極たまにあるそうだが、使われているかどうかは不明だ。
二つ目の宝箱から出たのは、折り畳みの雨傘だった。小さく畳めて軽量なので、普通に使う分には良さそうだ。しかし、俺達が求めているのはこれじゃない。
そして、今回の探索で最後となるだろう三つ目の宝箱に到着した。中身を確認した一同は困惑し、気不味い雰囲気が全員を包んだ。
「久川、良かったな」
「あ、ありがとうございます」
宝箱から出てきたのは、薄く金色に輝く戦鎚だった。久川兵長の装備更新も必要だったから嬉しいと言えば嬉しいが、冬馬伍長だけ魔鉄の剣のままとなる。
この何とも言えない空気、誰かどうにかしてくれ!




