第六百十一話
「伍長、天然キャラは井上兵長だけで十分ですよ?」
「ちょっと久川兵長、誰が天然なのかな?」
盛大にコケた冬馬伍長に久川兵長がツッコミを入れたが、そこに井上兵長がツッコミを入れる。俺はそれを見ながら神炎を発動し、突然の漫才に戸惑っていた突撃牛を焼いておいた。
えっ?これ隙だらけだけど攻撃して良いの?空気読んだ方が良い?という心の声が聞こえてきそうなくらい狼狽していた突撃牛は、攻撃するんかい!空気読めや!という抗議をしてそうな表情で丸焼けになった。
「あっ、華麗に倒して名誉挽回するつもりだったのに・・・」
「お主らが始めた漫才に戸惑っておったが、攻撃されていた可能性もあったのじゃぞ。排除するに決まっておろうが」
今では俺達の誰もが余裕で躱せる突進だが、躱し損なって直撃すれば重傷コース待った無しだ。そんなの許容出来る筈がない。
「ド正論で反論出来ません。ですが、次は失敗しませんから!」
そう言い切った冬馬伍長は、その後現れた突撃牛を一人で斬り伏せていった。三頭の牛を危なげなく魔石の変えたのだが、事件は四頭目の突撃を躱した時に起きた。
「こいつもこれで終わり・・・って、大根じゃ切れないわよ!」
「剣と大根間違えるとか、また古典的なボケをかましたわね。井上兵長、うかうかしてると負けるわよ?」
「久川兵長、私は天然じゃありませんから!伍長と競うつもりもありませんから!」
井上兵長が天然かどうかの議論は保留するとして、流石に剣と大根を間違えるのは異常だ。と言うか、あの大根はどこから出したんだ?
「あっ、えっと、玉藻様、これは何かの間違いで・・・決してブリ大根が食べたいなんて思っていた訳では・・・」
「落ち着かぬか、冬馬伍長。大根手にして混乱するでない」
一同に無視されている突撃牛をウェルダンに焼き上げつつ、再びの醜態に混乱する冬馬伍長を宥める。これはもう冬馬伍長かドジっ子だからなんてレベルの話ではない。
「一度迷い家に戻るとしようぞ。その剣を確認したいでな」
「剣を確認、ですか?」
「そうじゃ、どうもその剣が怪しい。先程入手したアイテム鑑定のアイテムを使えば冬馬伍長がドジっ子に目覚めたのか剣の影響なのか分かるじゃろう」
ならば初めから鑑定アイテムを使って鑑定しろよ、というツッコミが殺到しそうだが、俺も今の今までそれの存在を綺麗さっぱり忘れていたのでそこには触れないでほしい。
俺は迷い家への入り口を開き、たった今焼いた牛さんが変化したお肉を持って入る。こんがりと焼いた筈なのに、ドロップするのは生肉なんだよなぁ。
「あっ、玉藻お姉ちゃん。十二階層に着いたの?」
「いや、少々確認したい事が出来たでの、それも兼ねて休憩じゃ」
すぐに出られるよう迷い家の出入り口近くにいた舞とアーシャを連れて家屋に入る。鑑定の結果次第ではあの片手剣は封印する事になるかもしれないな。




