第六百七話
「この階層も無いですね」
「ここのモンスターは落とし亀じゃからな。無視すれば探索し放題で探索せぬ筈がないからのぅ」
この階層にも宝箱は無いようだ。遭遇しても無視出来るモンスターしか出てこないのだから、探索しやすさは一階層より上かもしれない。隅まで探索されてもおかしくない。
「では見せてもらおうかのぅ、井上兵長の杖とやらの性能をっ!」
「わかりました。あそこに落とし亀がいそうですね」
この世界、宇宙世紀なアニメは存在しない。なので誰からも突っ込まれる事もなく、井上兵長は落とし亀の巣を軽く踏んで穴を露出させる。
「あの杖、一定量の魔力を集めると発射出来ようになります。今回は最低量で撃つように言っておきました」
「最低量?溜めた時間で威力が増すのかのぅ」
「はい。集中する時間をかければ比例して威力も増します。上限はありますが、結構な威力になりますよ」
集中している井上兵長の代わりに冬馬伍長から説明を受けた。威力の調整が出来るとは、思ったより使える杖なのかな?
「玉藻様、撃ちます!」
井上兵長が叫ぶと同時に杖から魔力の塊が発射された。穴の底に向けて撃たれた魔力弾は逃げ場がない落とし亀に直撃し、一撃で魔石に変化させた。
「防御力が高い落とし亀を一撃とは・・・兵長、溜めを維持すれば撃ちたい時に撃てるのでは?」
普通なら集中時に移動出来ないので待ち伏せにしか使えないが、俺達には迷い家に搭載した車両がある。それを使えば溜め状態での移動は可能だろう。
「残念ですが、最大値まで溜めて少しすると魔力は散逸してしまうのです。そして使い手に疲労が溜まるというペナルティーが与えられます」
「最大値で維持というのは無理じゃったか。残念じゃな」
それも井上兵長が実演してくれたが、最大値まで溜まり魔力が迸った状態になり数秒で魔力は散逸してしまった。そして井上兵長は大きく息を荒らげて消耗を隠せなくなった。
「これは売れないのも納得じゃ。ちとピーキー過ぎる性能よのぅ」
「はい。しかし、上手く使えば戦力になるかと思います。次の探索で何階層のモンスターまで通用するか探りたいです」
最低出力で落とし亀を倒すのに一撃な杖だ。少なく見積っても二十台の階層までは通用するだろう。
「井上兵長はこれで良いとして、私と久川の武具が欲しいですね」
「それは運次第じゃな。宝箱に良い武具が入っておる事を祈るしかないわ。それ以前に宝箱が無いと話にならんがのぅ」
井上兵長の杖の検証も終えた以上、この階層に用はない。落とし亀の巣を回避し十階層への渦へと向かう。
「玉藻様、次の階層に宝箱があると良いですね」
「微妙じゃな。次はウザいオークじゃが、地図は埋まっておるでな」
体力と腕力が高く戦いが面倒なオークだが、肉目当てに連戦するパーティーも居る。ここもそんなパーティーに開拓されたのだろう。
今回の探索で二人の武具が見つかれば助かるが、そこまで上手くいかないかなぁ。




