第六百六話
緋緋色金の全身鎧を回収後、舞とアーシャを迷い家に戻して八階層を目指した。探索を終わらせるには少し早い時間に八階層に到達したが、宝箱の確認は明日にする事に。
「玉藻お姉さん、この階層には宝箱は無いようです」
「アーシャちゃん、見落としがないように念入りに確認しないと!」
「そうね、もう一度見てみるわ」
八階層に宝箱は無いと断じたアーシャに舞が再確認を促した。それは良いのだけど・・・
「で、舞と皇女殿下は何故妾の尻尾をモフっておるのじゃ?」
「玉藻お姉ちゃんの尻尾をモフっていれば、他のモフモフなんて気にもならなくなるわ。だからこれは防御行動なの!」
この階層に出てくるモンスターは迷い猫。誘惑にさえ気をつければ突撃豚よりも与し易いモンスターだ。その誘惑を無効化するための行動だと言われれば止める事は出来なくなってしまう。
「成る程。では、我々も八階層を移動中は玉藻様の尻尾をモフりながら移動する方が良いですね」
「井上兵長、お主らは今更迷い猫なんぞに惑わされたりせぬじゃろう。今は止まっているから良いが、歩きながらでは歩きにくくてかなわぬ」
便乗して尻尾をモフろうとする井上兵長に釘を刺しておく。俺の尻尾は極上だから、気持ちは分からなくもない。
やはり宝箱は無いという結論になり、舞とアーシャは迷い家に戻す。この階層は地図がかなり出来ているから、もう取られてしまったのだろう。
「迷い猫は倒しやすいですから、ここは隅まで探索されたようですね」
「恐らく、昔はここでキャンプを張っておったのじゃろう。惑わされぬなら普通の猫と変わらぬし、七階層で間引く拠点としては最適じゃ」
地上から七階層に潜るより、八階層から七階層に戻る方が時間も体力も節約出来る。物資の搬入という課題をクリア出来れば、この方が遥かに効率が良い。
「その物資搬入という課題も休息という課題も解決してしまう玉藻様は常識外れという事ですね」
「ダンジョン探索の為に誂えられたスキルじゃからな。何としても最下層まで辿り着きたいものじゃ」
果物や鰻、海産物取り放題という余録までくださったのだ。求められた結果を出さねば宇迦之御魂神様にあわせる尻尾がない。
「そういえば、七階層で井上兵長の杖を使わなんだな」
「この杖、溜めが長いのです。その間集中するので動けなくなるので、危なくて使えなかったのです」
溜めが必要な事や動けなくなるのは知っていたが、そこまで支障が出る物なのか。資料で知った知識と実際に使った感覚は違うという事だな。
「九階層の落とし亀には極めて有効だと思います。そこでお見せ致します」
「自ら動かず防御力が高い落とし亀なら最適じゃな。楽しみにするとしようぞ」
威力次第では、体毛を焼くのが面倒なスリープシープ討伐にかかる時間が短縮されるかもしれない。そうなれば羊毛の大量入手も出来るかも。
そんな淡い期待を抱きつつ、俺達は九階層への渦へと入るのだった。




