第六百四話
道中、レイスが散発的に襲ってくる。同時に襲撃される事がほぼ無かったのは嬉しい誤算だった。そして、嬉しい誤算はもう一つあった。
俺達を感知し、生気を吸おうと寄ってくるレイスに風の弾丸が飛ぶ。魔法耐性はそんなに高くないレイスはあっけなく魔石へと変化した。
「次は水の弾丸使ってみるね」
「舞ちゃん、何でそんなに早く揃えられるの?」
舞はあのキューブを持ってきていた。そしてレイスを見つけると風や水といった攻撃魔法が出る面を揃えて倒してしまっていた。
「コツを掴むと簡単に揃うわよ。アーシャちゃんも練習すれば・・・あっ、二面揃った」
話しながらもパズルを揃えていた舞は、同時に二面を揃えるという離れ業までやってみせた。こちらに向かっていたレイスに火の玉が当たった直後、まだ少し遠かったレイスに風の玉が直撃した。
「ネタ武器がネタじゃなくなってる・・・」
「舞ちゃん、防御だけじゃなく攻撃やバフまで出来るようになったって事?」
「姉がチートなら妹もチートになるのね・・・」
思いもよらなかった舞の活躍に呆れるしかない三人娘。この階層では彼女達の出番は魔石拾い以外は無さそうだ。
「あっ、玉藻お姉さん、あそこに宝箱がありました」
「八階層への渦が見付かった時点で誰も探索しなかったのじゃろうな」
宝箱は見晴らしの良い平地にそのまま設置されていた。探索者が付近を通れば確実に発見していただろう。
「では皇女殿下、宝箱を開けてもらえるかのぅ」
アーシャが開けた宝箱には、ピンポン玉くらいの大きさの紅色の珠が二つ入っていた。
「宝珠・・・でも、紐で繋がってる」
「玉藻お姉ちゃん、これ何だろう」
紐の長さは五十センチ程度。紐の真ん中を持ち揺らすと、二つの珠が一定のリズムでぶつかり離れる。揺らす加減を調整すると、ぶつかる速度が増していく。
「これは玩具ですか?」
「いや、これは歴とした武器じゃよ。正確には暗器に分類されるかのぅ」
ぶつかる珠を止めて、片方の珠を握る。紐を振り回して勢いをつけ、速度を維持させて珠を宝箱にぶつけた。
不壊属性でも付加されているのか、宝箱には傷一つ付いていない。しかし、ぶつかった衝撃の高さは派手な激突音が証明していた。
「あっ、玉藻様。ここでそんな音を出しては・・・」
「忘れておったわ。面倒な事になりそうじゃから、迷い家に避難してもらうぞえ」
ダンジョンで大きな音を発生させれば殆どのモンスターは集まってくる。しかも、この階層のモンスターは殺意が高いレイスだ。集まって来ない筈がない。
俺は急いで皆を迷い家に避難させると、四方八方から集まってくるレイスを空歩と神炎を使い迎撃した。レイスを倒しきり、魔石を集めて迷い家に入ると冬馬伍長に呆れられた。
「玉藻様らしからぬミスですね」
「弘法も筆の誤りと言うではないか」
ミスしたって良いじゃない。だって人間だもの。・・・えっ、神の使徒だから人間じゃない?細かい事を気にしてはいけません!




