第六百三話
「これは玉藻様の独壇場ですね」
「私達は何も出来ないわね。さっきのパズル持ってくるべきだったかな?」
手持ち無沙汰な井上兵長と久川兵長の会話を聞きつつ神炎を放つ。当てれば倒せる無双状態なのだが、相手が次々とやって来るので気が抜けない。
「今欲しいのは、威力が低くとも連射がきく飛び道具じゃ。あのパズルでは焼け石に水じゃな」
七階層に到着した俺達は、レイスの波状攻撃を受けている。特別攻略部隊の連中はレイスを間引いていなかったのか、かなりの量のレイスが押し寄せて来る。
「この辺りのレイスは全滅ですかね。魔石が凄い事になってますよ」
六階層への渦から動かず迎撃に徹していた為、辺りには寄ってきたレイスの魔石が大量に落ちている。それを三人が拾い集めていた。
「あら、この布は?」
「布?マントかな?」
魔石を集めていた井上兵長が白い布を発見した。近くにいた冬馬伍長が駆け寄り、それを手に取る。
「多分レイスのレアドロップじゃろうな。冬馬伍長、後で確認してみるのじゃ」
誰かの落とし物なんて事は無いだろうし、レアドロップと考えるのが妥当だろう。魔石と共に迷い家に放り込んでおこう。
「玉藻お姉ちゃんお帰りなさい。凄い量の魔石だね」
「前任者が間引いておらんかったのじゃろう。ギリギリの攻防じゃった」
神炎は強力で便利なスキルだが、同時に撃てるのは三発という制限がある。連射が出来ない為、質より量で攻められると押し切られてしまう。
「舞も皇女殿下もここで待っておったのか」
「うん、もうすぐ出番だと思って」
ダンジョン探索したくてウズウズしている舞とアーシャ。だけど、舞に確認しなければならない事がある。
「舞、この階層で戦う相手はレイスじゃ。霊体故慣性制御が通用せぬ可能性が高いのじゃ・・・」
「大丈夫だよ、舞は怖くなんてないから!」
迷い家で待つよう言おうとしたのだが、舞はその言葉を言わさずに力強く宣言した。
「玉藻お姉ちゃんは心配してくれたんだよね。でも、前に言ったように舞は怖くない。だって、玉藻お姉ちゃんが守ってくれたから!」
あの時、舞と両親は三体のレイスに襲われた。温泉宿で怖くないと言っていたけれど、実際に対峙すれば恐怖が甦るかもしれない。だから七階層では留守番させようと思った。
「舞は強いのぅ。じゃが、約束するのじゃ。レイスには慣性制御もクマさんの障壁も通じぬかもしれぬ。妾が迷い家に退くよう命ずる時は躊躇せず退くのじゃぞ」
「「はい!」」
舞とアーシャが声を揃えて返事をした。これならば大丈夫だろう。下手すると冬馬パーティーの三人の方が危ないかもしれない。
「三つの宝箱があります。一番近いのはこっちです」
思った通り、この階層はろくに探索がされていないので、三つも宝箱が残っている。少しは中身に期待しても良いだろう。
問題はどれだけのレイスに襲われるかだが、多いようなら全員を迷い家に逃がして空歩で引き撃ちすれば数を減らせるだろう。




