第六百二話
「玉藻お姉ちゃん、留守番ってどういう事?」
「簡単な話じゃ。そなたらは体力が足りぬのじゃよ」
二人は探索者ではない。軍人の俺達と同じペースでの移動なんて出来はしない。午前中は二人に合わせていたのだ。
「でも、もう元気だよ?」
「それは休憩したからじゃろう?休憩無しにどれだけの時間歩けるか分かっているのか?」
宝箱がある階層ではまた方向を示してもらう為共に歩いてもらわなければならない。その時の為に体力を温存してもらう必要がある。
「皇女殿下のスキルを利用しながら皇女殿下の想いを無視しておる、そう感じるやもしれぬ。妾はそれを否定せぬ。じゃがな、軍には目的の為に個人を犠牲にするという側面もあるのじゃ」
宝箱を回収するという軍の作戦行動に割り込んできたのは皇女殿下と舞の方だ。主体が皇女殿下ではなく軍である以上、軍の方針に従ってもらう必要がある。
「殿下、我々は決して殿下を軽んじておりません。しかし、軍の作戦行動である以上軍に従っていただきます」
「・・・わかりました」
冬馬伍長の真摯な説得に、アーシャは留守番する事を了承した。空気が悪くなってしまったが、どこかで実感させる必要があった事だ。
「アーシャ、彼女らはダンジョン探索の専門家だ。そんなプロ集団と普通の女子中学生が同じように動ける筈がないだろう?」
「皇帝陛下、ロシア帝国皇帝家の皇女殿下が『普通の女子中学生』でしたら、この世に普通ではない女子中学生なんて存在しませんが?」
「久川、それはそうだが今それを突っ込むか?!」
ニックがアーシャを慰めるが、久川兵長が突っ込みを入れた。そこに冬馬伍長が突っ込んだので全員笑ってしまった。
「まあ、普通かそうでないかは主観が入るからのぅ。判断は難しい所じゃな」
「・・・と、誰がどう考えても普通じゃない玉藻お姉ちゃんが申しております」
綺麗に纏めようとしたのだが、舞の突っ込みにより再び場は笑い声に包まれた。神の使徒なんて肩書付いてる以上、普通とは言えないからなぁ。
オチがついた所で迷い家から出て四階層に移動する。アーシャに確認してもらったが、四階層には宝箱は存在しなかった。
五階層も宝箱はなく、六階層に一つあったが中身は魔鉄製の大剣だった。今冬馬伍長が使っている片手剣よりは攻撃力がありそうだが、同じ材質なのでスリープシープには通じないだろう。
「良い武器が出ませんね」
「入手しにくいのも納得じゃな」
冬馬伍長がぼやくが、良い武器が簡単に出ないからこそ値段が高騰し市場にも出ないのだ。
「何故ダンジョンは宝箱にネタとしか言いようがない武具を入れるのでしょう?」
井上兵長が疑問を口に出す。恐らく、宝箱が出るように設定したのがイタズラ好きな神だというのが理由だろう。せめて知識欲旺盛な神が設定してくれたらと思ってしまう。
「嘆いても現状は変わらぬからのぅ」
この先はレイスによって進んだパーティーは限られている筈。取り残された宝箱は多いだろうから、それに期待するとしよう。




