第五百九十九話
「冬馬軍曹、殿下がスキルを使用する際無防備になるのじゃ。念の為防備を頼むぞえ。殿下、お願いします」
「六階層までは宝箱のみで良いのよね・・・この階層には無さそうです」
事前に行った打ち合わせに従い、安全が確保されたと判断したアーシャがスキルを使った。視点を上空からの物に切り替え、フロア全体を俯瞰しながら視界に写す物を宝箱に限定する。
もしこの階層に宝箱が残っていればアーシャの目に写るし、無ければ何も写らない。この時、視界が俯瞰となる上モンスターや人間も写さなくなるのでアーシャは完全に無防備になってしまう。
「玉藻様、皇女殿下のスキルとは一体・・・」
「私のスキルは千里眼です。遠視や透視、特定物の選別も行えるので宝箱の有無や場所を見通す事が出来ます」
この探索を行うにあたり、舞とアーシャのスキルを三人に話す事は関中佐や家族と合意している。なのでアーシャは躊躇う事なくスキルについて説明した。
「殿下が居れば、ダンジョンの宝箱を全て回収する事が出来るのでは?」
「次の階層への渦の場所も判明するじゃろう。地図のない階層では特に力を発揮するのじゃ」
転写でマップ作成も出来るが、それのお披露目は七階層についてからだ。このダンジョンの七階層はレイスが厄介な為完全な地図は作成されていない。
「後は井上兵長の杖の習熟じゃな」
「玉藻様、杖の試射は済ませてあります。もう少し強い相手でないとオーバーキルになってしまいます」
「ふむ、ならば先に進むとしようかのぅ」
二階層でもアーシャのスキルにより確認したが、宝箱は無いと判断された。しかし、三階層では一つ取り残されているようだった。
「あちらの方向、かなり離れた場所に一つ宝箱が見えます」
「倒しても利益が低い黒鉄虫だから探索も御座なりだったのだろうな。玉藻様、行きましょう!」
テンションを上げた冬馬軍曹に引かれるように俺達は四階層へのルートから外れてアーシャが示した方向に向かう。
念の為何回かアーシャに確認してもらいながら進み、宝箱がある筈の場所に到着した。
「そこの茂みの中です」
「イバラの中とは・・・知ってなければ確認しようとは思わないな」
アーシャが示したのは、複雑に絡まったイバラの藪の中だった。冬馬軍曹が片手剣で薙ぎ払うが、密集していて思うように除去出来ない。
「軍曹、妾がやろう」
俺は神炎を発動し、燃やす対象をイバラに限定して放った。ダンジョン内の設置物といえ植物だ。神炎には抗えず焼滅するのにさほど時間はかからなかった。
「玉藻お姉ちゃん、あそこに宝箱が!」
イバラがあった場所の中心と思われる場所に宝箱が鎮座していた。
「殿下、宝箱を開いていただけますか?」
「えっ、私が開けて良いのですか?」
「この宝箱は殿下のスキルで発見された物です。開ける権利も殿下にあります」
軍曹が宝箱を開く役目をアーシャに託した。アーシャは遠慮しながらも嬉しさを隠せていない。
「それじゃあ舞ちゃんも一緒に開けましょう。せーの!」
アーシャと舞が宝箱の蓋に手を掛け、タイミングを合わせて開いた。さて、中には何が入っているのやら。




