第五百九十六話
「滝本中尉も夏季休暇に入る事だし、冬馬パーティーと共にダンジョン攻略を行って欲しい所なのだが・・・」
「武具の更新が出来ない、ですね?」
ナニカ騒動も下火になり、マスコミから報じられる事が無くなった七月中旬。俺は関中佐と顔を突き合わせて夏季休暇中の予定について話していた。
「幾つかのダンジョン産武具は見つかった。だが、それが実戦で使えるかというと微妙な物ばかりだ」
「これは良いのではないですか?」
武具が記載されたリストを見て目についたのは、炎の矢を生み出し打ち出すという物だった。遠距離攻撃可能で炎の属性攻撃が出来るなら有用な筈だ。
「その弓は矢の威力が低くてな。青毛熊には牽制にすらならない。使用した者からは色と形から人参と揶揄されているそうだ」
青毛熊に全く効かないのであれば、使い道など無いに等しい。一階層や二階層で狩っている初心者には良いかもしれないが、軍では到底使えない。
「特別攻略部隊がレイスのせいで何も出来なくてな。本隊や支援隊は対応出来ても輸送隊に魔法を使える者が居ないから補給線を確保出来ないのだ」
「それでレイス対策にと確認したのですね」
レイスは物理攻撃が無効になる反面、魔法攻撃には弱いという性質を持つ。しかし、青毛熊に全く効かないのでは効果は望めないだろう。
「・・・この箒は槍ですか。年齢自認が十七歳になるって、その副作用に意味あるのですかね?」
「さあ?我々人類にはダンジョンの考えなんて理解出来ないな」
宝箱が出る設定にしたのは地球の神様二柱なので、宝箱の中身がダンジョンの意思で決定されているのか二柱の影響下にあるのかは不明だ。だが、それをここで言っても意味がないので告げずにおく。
「中佐、これは使えませんか?」
「どれどれ・・・破壊力の大きな魔法弾を撃てるが、溜めが長く溜めている間は移動も出来なくなる杖か」
普通のパーティーだとこれは使えないだろう。浅い階層では溜めている間に決着が着くだろうし、深い階層では溜めている間使用者を守りきるのが難しいからだ。
前にも述べたが、この世界において盾職というのは本当に少ない。重い盾を持って移動するだけでも消耗してしまうからだ。回避盾のような事が出来る探索者は居るが、移動できない固定砲台を守るには向いていない。
「平地の階層ならばサイドカーで移動砲台になれますし、迷い家の入り口で守るという手も使えます」
「その手があったか。早急に入手しよう。中尉、他にも使えそうな物はないか?」
俺はリストを最後まで見ていったが、他に使えそうな物は見当たらなかった。残念ではあるが、元々使えない不良在庫のリストなので当然と言えば当然だ。
「最終手段としては、自分達でダンジョンの宝箱から見つけるしかないですね」
「そう簡単に見つかるなら苦労は無いが・・・中尉には既に二つも見つけている実績があるからなぁ」
アーシャの同行が許可されれば、未発見の宝箱は根こそぎ発見する事が出来るしね。アーシャの同行許可が出るかどうかが問題だけど。




