第五百八十九話
「念の為、これも切っておこうかのぅ」
「ダンジョン用の中継機・・・そう言えば年始に中佐がお持ちしたのでしたね」
これで盗聴器があっても電波は外に届かない。ここに入れる人間はかなり限られるので無いとは思うが、用心するに越したことはない。
「玉藻様、昨日中佐から化け物になった少年が滝本中尉の元クラスメートだったとお聞きになったと思います」
「彼の存在自体忘れておった故、聞いた時には驚いたわ」
「先程、九州から彼の捜索記録が届いたのでお知らせに参りました」
彼は養子に行った先の九州で行方を晦まし、養父母から捜索願いが警察に提出されていた。その記録が情報部に届いたようだ。
「彼は一人で行きつけの本屋に行き、そこから足取りが掴めなくなったそうです。誰かに害された痕跡もなく、地元警察は自身の意思による失踪と結論付け捜索を打ち切りました」
「打ち切ったじゃと?確か、彼は地元の名家に養子に行ったと記憶しておるが・・・養父母はよくそれで納得したのぅ」
帝都から連れてきた有能な跡継ぎだ。そう簡単に諦めるとは思えない。その名家の力を上回る圧力でもかかったのだろうか。
だとすると、その圧力をかけた存在がこの事件の鍵を握っている可能性がある。そこから手繰れば事件解決の糸口が掴めるのではなかろうか。
「それが・・・店内の防犯カメラの記録によると彼が居なくなったのは未成年お断りの商品が並べられた一角だそうで」
「未成年お断り・・・それは捜索を促しにくい状況じゃな」
まだ義務教育中の中学生がそういった書籍やDVD,グッズが売られている売り場に足を踏み入れ行方が分からなくなった。
名家はその醜聞と迎えたばかりの跡継ぎを天秤にかけ、醜聞が漏れるより新たな跡継ぎを探す方が良いと判断したのだろう。
「その売り場には監視カメラが無かったそうです。中で監視せずとも一カ所しかない出入り口にカメラがありましたので」
「客足はそう多くはないじゃろうし、万引きされても犯人の特定は楽だという訳じゃな。そういう場所に訪れる客は商品を見る様子を記録されたくないじゃろうし」
今の発言は前世の記憶を基にした発言だが、多分この世界でも同じだろう。
「その通りなのですが・・・玉藻様、随分とお詳しいですね」
「行っておらぬからな?妾の前世の記憶を基に話しただけじゃからな!」
ついでに言うなら、その前世の記憶も経営者からの雑談で聞いたのだ。前世の修理屋時代に万引き防止システムも手掛けていたので、小売店の店主さんと話す機会も多かったのだ。
「それで、店舗から先の足取りは全く分かっておらぬのか?」
「はい、店舗からどうやって出たのかすら不明です。客が出入り出来るのは一カ所のみで、そこを監視していたカメラには入る姿は写っていましたが出る姿は確認出来ませんでした」
お客が出入り出来る場所から出ていないならば、従業員が使う通路などが怪しいな。それはどうなのだろう。
「従業員の通路にカメラはありませんが、もしそこを通ったとしても外に出る従業員通用口にはカメラがあります。従業員スペースから普通の売り場に戻ってもカメラに写るでしょう」
これは完全に手詰まりか。宇迦之御魂神様、誰か謎解きをする為の名探偵な転生者でも送り込んでもらえませんかね。




