第五百八十八話
翌朝、テレビやネットでは少年の正体が暴かれ養子に出る前や後のプライベートな情報までが流出していた。当然、俺が元クラスメートであった事も暴かれている。
「お兄ちゃん、陸軍陰謀説論者が元気になってるわ」
「当時は正式な軍人ではなかったけど、嘱託という形で関わっていたからなぁ」
正社員ではなくバイトのような立場だったが、当時から陸軍に属していたのは否定の出来ない事実だ。その為、実験材料にする為に転校させたとの陰謀論の声が大きくなっている。
「本当にそんな実験をするのなら、俺と全く関わりのない人間を使うだろうに」
「優ちゃん、海軍がやらかしたから陸軍もやらかしていてもおかしくないと思われてるのよ」
海軍と陸軍は完全に別物だ!と声を大にして言いたい所だけど、調子に乗って暴走する連中が居るのも事実だ。広報部とか、広報部とか、広報部とか。
テレビをつけると、チャンネルによって中継している場所が違っていた。少年が養子に行った先の家。転校後の学校。養子に行く前の実家。ベルウッド学園。
「優、このネタを最初に報道したのはここらしいぞ」
「唯一特番流さなかったあそこが・・・他の局は地団駄踏んで悔しがっただろうな」
この件に最も熱を入れていなかった局が特ダネを掴み報道するとは。マスコミにも物欲センサーは働くのだろうか。
「滝本様、お客様がお見えです。優様へのご面会を希望されていますが、如何致しましょう」
「面会?ここの人達がマスコミなんて通す筈はないし、誰だろう?」
関中佐ならば無条件で通すだろうし、ニックとアーシャも同様。他に俺を訪ねてくる人なんて思い浮かばない。
「この方なのですが・・・」
「うん、会うからここに通して下さい」
執事さんが差し出したタブレットには待機室のような部屋に居る男性が映っていた。どこかの制服を着ていて、執事さん曰く出入りの指定業者の制服だそうだ。
「畏まりました。少々お待ち下さい」
「優、大丈夫なのか?」
執事さんが面会者を呼びに行く為に退室すると、父さんが心配そうに声をかけてきた。
「大丈夫、情報部の先輩だよ。多分通信では伝えられない連絡をする為に来たと思う」
情報漏れを防ぐのに安全度が最も高いのは、当事者同士の口頭による伝達だ。これならば傍受される事はないし、文面でのやり取りのように他者に読まれる事もない。
「先輩、お越しいただきありがとうございます。本来ならば俺が情報部に出勤するべきなのですが・・・」
「この状態で市ヶ谷に来たり軍関係者と接触した事が漏れるのはマズイからな。迷い家で話をしたいが頼めるかな?」
万が一にも外部に知られたくない情報だからこそ先輩がここに来た。ならば情報の伝達も最も安全な場所で行うのが筋だろう。
「勿論です。奥の部屋で入りましょう」
俺は先輩を隣の部屋に案内し玉藻に変わる。迷い家の入り口を開けて入ると、すぐに入り口を閉じた。これでここに誰かが入る事は出来ない。
さて、先輩はどんな情報を携えて来たのやら。朗報ならば良いけれど、その可能性は少なそうだなぁ。




