第五百八十四話
「お兄ちゃんお兄ちゃん、障壁の大きさが変わったよ!」
「舞、おはよう。起きてすぐに確かめたのか」
朝の鍛錬の為に着替えていると、ヌイグルミを持った舞がパジャマのままで飛び込んできた。展開されている障壁は、昨日舞が展開したものより少し大きい気がする。
「お兄ちゃんもお姉ちゃんになって確かめてみて!」
「そうだな、やってみよう」
俺は女性体を使い斧槍を持っていない左手でヌイグルミを受け取る。俺の障壁は昨日の大きさと変わっていなかった。
「・・・右手に斧槍、左手にクマのヌイグルミ。この姿でダンジョン攻略なんてしたら、見た人から大笑いされるだろうな」
「お姉ちゃん、それを言ったらクマさんのヌイグルミを持ってダンジョンに入る段階で注目の的になるわよ」
ダンジョンに入る前に、入り口を守るギルド員さんに正気か疑われて止められそうな気がする。
「あっ、お姉ちゃん。斧槍を置いたら障壁の大きさ変わるかな?」
「他の武具との併用による影響・・・あるかもしれない、やってみよう」
一旦障壁を消して斧槍を床に置いた。そしてヌイグルミを両手で持って再度障壁を出してみたけど、大きさはさっきと変わらなかった。
「ダメかぁ」
「これまで大勢が法則を解明しようとしてきてダメだったんだ。そんなすぐに分からないよ」
変わらない障壁に悄気る舞だったが、そう簡単に分かれば苦労はしない。少し遅くなったが鍛錬を行って朝食を食べる。
今日は土曜日なので登校する必要はないのでゆっくりできる。まあ、登校しようにもここから出られるか疑問なのだが。
「滝本中尉が滞在する迎賓館前から中継を繋いでいます。我々は滝本中尉に取材すべく宮内省に申し込みを行っていますが許可は降りていません」
「昨日謎の化け物が板橋ダンジョンに出現した件ですが、我々は陸軍情報部の滝本中尉が板橋ギルドにおり対応したとの情報を掴んでいます。これは果たして偶然なのでしょうか」
テレビを見れば一つの局を除いて板橋ダンジョンの化け物騒動を扱っていて、俺に取材しようと中継クルーが迎賓館周辺に集まっている。
「これ、優が顔を見せたら速攻で囲まれるな」
「抜け出せない事は無いと思うけど、強引な手段も使う必要ありそう」
雑居ビルの壁面を蹴って屋上に上がり、ビル伝いに走れば確実に撒けるだろう。しかし、無断で他人が所有するビルに侵入する事となるので違法行為だと責められたら言い訳出来なくなる。
「普段ギルドに居ないお兄ちゃんが居たし、その変化した人がお兄ちゃんを知っていたというのが問題よね」
「板橋ギルドに居たのは上司の命令だからな。関中佐がそれを公表してくれれば収まるだろう。俺を知っていた件も少年の身元が判明すればマスコミはそっちに行くだろう」
現状、事件に対する情報が少ないからマスコミは一番ネタになる俺に群がっている。調べが進んで少年の家族情報などが割れれば取材の矛先はそちらに向くと思う。
願わくば、月曜日までに調べが進んでくれる事を願う。あれを突破して登校するなんて冗談じゃない。




