第五百八十三話
「アーシャ、ちょっとやりたい事があるから離れてくれる?」
少しだけ顔を上げて俺を見るアーシャ。銀髪碧眼の美少女が上目で見つめている。ちょっとだけこのままでも良いかと思ってしまう。
両手に力を入れて強く抱きしめた後離れてくれた。俺はヌイグルミを手に取り少し離れた場所に移動する。
「これは所有者が念じると障壁を発生させるんだ。こんな風にね」
障壁出ろ、と念じると前に試した時と同じ大きさの障壁が展開された。今の所出力は安定しているようだ。
「優、これ叩いてみても大丈夫か?」
「大丈夫だよ父さん。障壁の硬さも変化するみたいだけど、叩いた程度なら壊れないと思う」
現役の軍人が力を入れて叩いても割れなかったのだ。民間人で体を鍛えてもいない父さんが叩いても平気な筈だ。
「おおっ、結構硬いな」
父さんが満足すると、ニックや母さん、舞とアーシャも叩いて確認していた。全員叩いたので障壁を消す。
「舞、試しに使ってみてくれないか。人により効果の幅が出るから、その法則を見つけたいんだ」
「面白そう!障壁出て・・・出た!」
舞が渡されたヌイグルミを持って念じると、俺よりは小さいものの障壁を出す事に成功した。叩いてみたが硬さもそれなりにありそうだった。
「はい、次はアーシャちゃんね」
「水色のドレスに白いヌイグルミが映えるな。そのまま持ち歩いても違和感無さそうだ」
アーシャは皇女殿下なので、普段はドレスを着用している。聞いた話では外出用ドレス、室内用ドレス、晩餐用ドレスなどシチュエーションによってドレスを着替えるそうだ。
「ロシアに居た時はこんなにドレスを持っていなかったので、少し戸惑っています」
「本来はそれが当たり前なのだよ。アーシャには苦労をかけて済まなかったな」
ニックが謝っているが、それはニックの責任ではない。ロシア帝国皇帝家を利用しようとした俗物達のせいで隠れ住む羽目になったのが原因なのだ。
なんて話ながらアーシャが生み出した障壁は、俺より少し大きな物だった。大体七十センチ四方くらいだろうか。
「アーシャの方が大きい障壁か。年齢・・・じゃないよな」
「年齢に応じて変わるなら、舞の時も同じくらいの大きさになった筈だよ」
アーシャと同い年で誕生日まで一致している舞は俺より小さな障壁だった。この事から年齢が鍵ではないことがわかる。
「母さんも協力してくれるかな?」
「もちろんよ。こんな面白そうな事、是非やらせてほしいわ」
アーシャが障壁を消してヌイグルミを母さんに渡す。母さんが作り出した障壁は、舞より少し小さな障壁だった。
「お母さんの方が小さい・・・どういう基準なんだろ?」
「それが分からないから安売りされて、それでも売れなくて板橋に流れてきたんだよ」
これまで多くの人達がこのヌイグルミの法則を突き止めようと試行錯誤しただろう。それでも解明出来なかった謎。迎賓館暮らしで刺激が少ない生活の楽しみになってくれるかな?




