第五百八十話
パーカー姿のまま市ヶ谷に戻った。フードを被ったままだったので門衛の兵士さんに止められそうになり、慌ててフードを外した事は秘密という事で。
「滝本中尉、戻りました」
「中尉、お帰り。妙なトラブルに巻き込まれたらしいな」
「中尉、戻ったか。板橋で事件があった事は聞いている。皆にも報告をしてくれ」
俺が板橋に武具を確保に行った事は先輩方も知っている。そして奇妙な事件があった事も全員知っていた。俺は先輩方と関中佐にダンジョンでの出来事を説明した。
「人が化け物になり、息絶えたら元の姿に戻ったという事か」
「そんなスキルあったか?聞いた事無いぞ」
少年が化け物になったのはスキルだろうと先輩方は予想しているようだ。しかし、獣人化の亜種のようなスキルだとしたら最後に元の姿に戻った事が説明出来ない。
ただ、スキルは全て前例に沿った物という訳では無い。俺の女性体が良い例だ。これまで性別が変わる系のスキルは一度変えたら戻れないというのが常識だったのだ。
「それと、中尉を知っていたというのも引っかかりますね」
「それに関しては、その少年の身元が判明すれば分かるだろう。中尉はマスコミを通じて顔が知られているからな。中尉の関係者とは限らない」
先輩の疑問に中佐が答えた。まずは少年の身元を調べ、保有スキルなどを調べなければならないだろう。それを調べるのが警察になるか俺達になるかは微妙な線だ。
通常、事件の捜査は警察が行う。しかし、今回の件はダンジョン内で発生した上にかなり特殊な事件だと思われる。
「今日の事件、捜査を警察にやらせて情報はこちらにも貰う予定だ。上前をはねる事になるが、警察は秩父の件で我々に負い目があるからな」
「中佐、悪どい。ですが、我々とて暇ではありませんからな。楽が出来るなら大歓迎です。こりゃ切っ掛けを作った中尉に感謝だな」
うわぁ、まさか秩父の事件がこんな所に影響するとは。警察の皆さんには頑張ってもらいましょう。
「それと、肝心のダンジョン武具ですが・・・入荷したのは盾でした」
「盾か、冬馬パーティーには盾使いは居ない。期待外れだったようだな」
「はい。ですが自分用にと自費で購入してきました」
俺は落し亀の大盾を使っているが、この大盾がいつまで使えるか不安を抱いていた。魔鉄製の盾より強い優秀な武具ではあるが所詮九階層に出現するモンスターの素材で作られた盾なのだ。
防御力に特化したモンスター故性能は良いが、流石に三十階層でも通用するかは怪しい。迷い家の入り口を盾の代わりに出来るが、ちゃんとした盾も持っておきたいと思っている。
もっとも、今日購入したコレが「ちゃんとした盾」と言えるかどうかは甚だ疑問ではある。しかしそこは突っ込まないでほしい。
「問題は、盾というのがこれなのです」
「中尉・・・冗談だよな?」
女性体を発動して着せ替え人形により収納されていた盾を取り出して皆に見せる。右手に斧槍、左手に盾を持つ筈の俺の左手に抱えられているのは、首元に真っ赤なリボンを付けたクマさんのヌイグルミだった。




