第五百七十九話
「ちょっとこれ置かせてもらいます」
「これは・・・もしかしてダンジョン産の武具ですか」
女性体の初期状態に登録されていたのは斧槍に膝丈のワンピース装備の着せ替え人形だった。盾を持つ為に斧槍を机に置かせてもらう。
「それも女性限定装備ですよ。女性のみ柄を自在に伸縮出来ます」
斧槍の説明をしつつ盾を持ち効果の発動を願う。すると俺の眼前に五十センチ四方の光が現れた。軽く叩くとコンコンと硬質な音がする。
「成る程、この光で攻撃を防ぐ仕様みたいですね」
「説明書を見る限り、中尉殿は相性が良いみたいですな」
店長さんによると、この大きさの障壁を張れたのは一人しか居なかったようだ。その人は二十代の探索者だったらしい。
「年齢は近くもないか。何が性能を分けるのだろう」
「そこが分かれば売りようもあるのですけどねぇ」
この盾の困った所は、今俺がこれだけの障壁を作り出せていても明日同じ事が出来るとは限らない事だ。気まぐれな盾なんて怖くて使えない。
俺は盾を机に置いて斧槍を手に取る。そして女性体を解いて男に戻った。
「そんなだから安売りしても買い手が付かず、うちに流れてきたそうです。こりゃ、うちでも塩漬けか別の店に流すかです」
諦観した店長さんが力なく笑う。付き合いで売れないと分かっている商品も引き取らねばならない時もあるようだ。
「売値はいくらに設定するのですか?」
「儲けは考えてませんから、原価ですよ。それでも売れないでしょうから値引きする事になると思いますが、それでも売れないでしょうね」
「店長さん、これ、仕入れ値で買いましょうか?」
「ち、中尉殿、何を言い出すのですか!」
俺の提案に狼狽える店長さん。不良在庫確定な商品を買おうと言うのだから売れば良いのに、人が良すぎませんか?
「軍としては必要ない装備ですけど、話しのネタとしては面白そうなので。後は税金対策です」
俺はお金を使う事が殆ど無いので、貯金が結構貯まっている。ダンジョンでお肉狩りをすれば魔石も貯まるのでそれを売れば結構な収入になるのだ。
そこに中尉としての給金も加算されている。しかしそのお金を使う事は殆ど無い。普段買う物なんて調味料くらいしかないのだ。
電車やタクシーで移動した時も、運賃は経費で落ちるので俺の財布は減らない。休みの時は出歩かないので、移動するのは軍務の時だけなのだ。
「うちとしては助かりますけど、本当に良いのですか?」
「ああ。こういうネタ武具も面白そうだからね」
舞やアーシャと一緒に性能が変わる条件を突き止めるというのも面白そうだ。それに、親切な対応をしてくれた店員さんと店長さんを気に入ったというのもある。
「では支払いはこれで。あっ、包まなくて良いですよ。そのまま持ち帰りますから」
探索者カードで支払い、盾を箱に入れて包もうとした店長さんを止める。そして女性体を発動して盾を受け取ると、解除してみせた。
「それが中尉殿のスキル・・・便利な物ですね」
「複数の武具を運ぶ手間なしに持ち運べますからね。ダンジョンでは重宝してますよ」
着せ替え人形でパーカー姿に戻った俺は店長さんに挨拶してギルドを出た。ナニカの件もあるし、関中佐に報告しなくてはいけない。




