第五百七十七話
「えっ、滝本中尉って、テレビで話題になってたあの人?」
「マジか、全然気付かなかった!」
再起動し、思い思いに発言する探索者達。黒ゴス着てくれないかという欲望丸出しの声まであったが、当然ながら無視させてもらう。
「静かに、静かに!滝本中尉、軍人の君が何故平日昼間にこんな所に居るのかな?」
本来なら俺は、平日のこの時間は軍務に就いているか士官学校で授業を受けている筈だ。なのにそれをせず騒動が起きたギルドに居る。関与しているのではと疑うのも仕方ない。
「上からの指示ですよ。今日ここの売店にダンジョン産の武具が入荷するという未確認情報が入ったのです。もし入ったらそれを確保するようにと派遣されたんですよ」
「入るかどうかも分からない商品を買うために来ただと?そんな言い分を信じろと?」
「関中佐にでも鈴置中将にでも確認されればよろしいかと。あちこちから到達階層記録の更新をせっつかれているようで、強力な武具の確保は至上命題だそうですよ」
俺達は羊素材を持ち帰った事で新たな素材の確保を期待されている。しかし、更に深く潜るには冬馬パーティーの武器更新が必要だ。
「では後ほど確認させていただこう。して、中尉が知る事とどんな行動を取ったのか話してもらえまいか」
俺は昼食を取る為に外に出ようとした際に受け付けで騒ぎを聞いた事。すぐに四階層に行きナニカのヘイトを取って倒れていた職員を他の探索者に助けさせた事。ナニカは俺を知っていた事。いきなり血を吹き出し倒れた事。身体が萎み少年になった事を話した。
「では、そいつは中尉の縁者という事なのだね?」
「さあ、それは知りませんよ。知っての通り、俺はメディアに露出している。俺が知らずとも俺の事を知っている者など万単位で居るだろう」
とは言ったものの、あの少年には見覚えがあるような気がする。だけど、どこで会ったのか思い出す事が出来ない。
「そうか・・・まあ、そこは追々調べるしかないだろう。中尉、証言をありがとう」
俺の証言は終わり、次の探索者が証言を始める。しかし、全員の探索者が証言を終えても新たな発見に繋がるような証言は無かったのだった。
「改めて事件への協力と証言に感謝の意を表したい、ありがとう。謝礼は後日振り込む事となる。数日かかると思うが、そこは勘弁してもらいたい」
ギルド長がしめて解散となった。俺は他の探索者が出て行った後も残り、スマホの画面を凝視するギルド長に質問した。
「ギルド長、犠牲になった職員が少年をダンジョンに入れたと考えて良いのかな?」
「ああ、監視カメラの映像にあの職員が少年を連れてダンジョンに入った映像が残っていたそうだ。彼が裏口から少年を伴って入った事も判明している」
犠牲になった職員が不正に少年をギルド内に連れ込み、ダンジョンに導いた。そして少年はナニカに変わってしまい、理性なき獣のように暴れたということか。
職員がギルドの外から引き込んだのは確定として、少年はどこから来たのか。何故ナニカに変貌したのか。少年と職員から聞き出せない以上、それを探るのはかなりの難事になりそうだ。




