第五百七十話
「中尉殿、流石です」
「ああ、ありがとう」
梅雨入りし雨の日が続く中行われた試験で、俺は学年一位という好成績を得る事が出来た。しかし、それは他者の嫉妬を招く事になる。
軍務で欠席する俺が一位を取った事で、忖度されているのではないかという噂がどこからともなく流れるようになったのだ。
「お前達に言っておく。下らない噂が流れているようだが、根も葉もないデマだ。滝本中尉は私立ベルウッド学園にて学年一桁から落ちなかった。それがどんな意味を持つかわかるな?」
ベルウッド学園の生徒は、殆どが上流階級の子女である。純粋な平民がそこに入り込むにはかなりの学力を要求される。
つまり、ベルウッド学園の成績上位陣は上澄みの中の上澄みなのだ。そこで一桁をキープし続けたという実績は、俺の学力の高さを保証してくれる。
「そして軍務系教科だが、中尉は情報部の仕事を十分にこなしている。まあ、これに関しては入学前から高度な判断力を持っていたようだからな」
今回の試験では一般教科だけでなく軍務系教科の試験も行われた。そちらはベルウッド学園の実績は役に立たないが、代わりに既に軍務をこなし適切な判断の下に行動出来ているという実績がある。
「滝本中尉はここでの学びはほぼ必要ないレベルにある。それでも在籍しているのは、佐官任官にここの卒業資格が必要だからだ。他者を貶めても自身の実力は上がらない。下らない事を言っている暇があったら自身を高める努力をしろ」
何人か不貞腐れている生徒が居るようだが、下らない事に熱を入れて脱落なんて事にならなければよいけどな。
「中尉、今週の金曜日に板橋ギルドに行ってもらいたい」
放課後、情報部に顔を出してすぐ関中佐からこんな事を言われた。
「板橋ですか。この間潜ったばかりですが、軍務で間引きですか?」
「いや、別件だ。確定ではないのだが、金曜日に武具の入荷があるかもしれないという未確認情報が入ってな。中尉は朝から板橋に張り付き、もし入荷したら冬馬パーティーに合う武具があるか確認してほしい」
なんと、戦闘でもなく諜報でもなくお使いイベントだった。朝からだと学校を休む事になるが、そんな理由で休んで良いのだろうか。
「冬馬パーティー用の武具確保が全く進展しなくてな。上からはダンジョンの到達記録更新はまだかと矢の催促だ」
「関中佐、追い詰められてますねぇ・・・」
到達記録タイ達成やデンシカの角大量確保という実績が上層部に欲を抱かせたのだろう。こういう場合、大抵中間管理職が割を食い苦労する。
「三人に良いと思った武具は確保してくれ。値段の折衝は後ほど行うが、全て陸軍で確保する。良い武具は他の所でも足りていないからな」
「了解しました。滝本中尉、金曜日の朝から板橋ギルドに常駐致します」
こうして俺は金曜日は入荷するかも分からない武具を選定する為に朝から板橋ギルドに詰める事となった。午前中くらいに入荷してくれると助かるのだけど、そこは運送屋さん次第だからなぁ。
 




