第五百六十九話
翌日、父さんと母さんは診察に行き舞とアーシャは学校に向かった。迎賓館に居てもやる事が無いので俺はダンジョンにお肉の補充に行く事にした。
予定外の行動なので関中佐に連絡しておく。尚、潜るダンジョンは皇居ダンジョンではなく板橋ダンジョンにした。
これは一般の探索者も潜るダンジョンにする事で玉藻の存在を出しておくという意図からだ。全然姿を現さないと妙な噂が出たりしそうだからね。
「・・・という訳で、帰りは明日の昼頃だと思うので伝言をお願いします」
両親と舞は俺が出かけるなんて思っていない筈なので、帰ってきて居なかったら不安に思うだろう。なのでニックに伝言をお願いする事にした。家族への伝言をロシア帝国皇帝陛下に頼むなよってツッコミ入れられそうだな。
「そうか、ダンジョンに向かうのだな。ダンジョンに・・・」
ニックが仲間になりたそうにこちらを見ている。仲間にしますか?
はい
→いいえ
これがゲームやアニメならば皇帝陛下を仲間にして共に闘うという展開もあるのだろうけど、現実でそんな事をしたら関係者がストレス性胃炎で入院しまくる羽目になるだろう。
一人迎賓館に残って寂しいのは分かるが、流石に皇帝陛下を連れてお肉集めをする訳にはいかない。玉藻付きの侍従さんにもダンジョンに行きそのまま帰る事を告げ、玄関前から空歩で上空に上がった。
上がる前に俺の姿を捉えたマスコミが騒いでいたような気もしたが、追ってくる事は不可能なので気にしない事にする。
「おっ、おい、あれを見ろ!」
「獣人?珍しいな・・・巫女服に狐耳って、玉藻様じゃないか!」
板橋ダンジョンのギルド前に降り立ち中に入ると、居合わせた探索者達の注目を集めてしまう。すぐ様ギルドの職員が駆け寄ってきた。
「これは玉藻様、板橋ギルドにようこそ。ギルド長の部屋にご案内いたします」
「いや、無用じゃよ。ただダンジョンに潜ろうと思い立ち寄っただけじゃからのぅ」
「で、ではダンジョンの入り口にご案内いたします」
ガチガチに緊張した職員さんに先導されてダンジョンの入り口に移動する。
「ふむ、綺麗に修繕されておるのぅ。大穴が開いていたなんてとても思えぬ」
「そういえば、玉藻様は氾濫未遂の際に助けていただいたのですね。その節はありがとうございました」
職員さんのお礼に手を上げて応えながらダンジョンに入る。
一階層で突撃豚を狩っている探索者に驚かれながら二階層への最短ルートを爆走する。十階層までノンストップで走った俺は、十分な量のオーク肉と突撃牛の肉を集める事が出来た。
迎賓館で暮らしているので食肉の消費量は格段に減ったが、保存はきくのだしあればあるだけ助かるからね。
翌日、優に戻って迎賓館に帰った俺は、尻尾をモフれずに不機嫌だった女性陣に長時間拘束されたのだった。
いや、玉藻の尻尾がモフモフなのは認めるけど、中毒症状起こすなんて事は無いはずだからね?




