第五百六十二話
「玉藻様、今回英国側から来るのは前回と同じ二人だそうです。ご注意下さい」
「いきなり滝本中尉に求婚するような常識知らずですからな。本音を言えば玉藻様に会わせたくありません」
侍従長さんと太政官さんが英国側担当者に対する愚痴を溢す。この部屋には俺達四人しか居ないが、盗聴や盗撮の可能性がある為完全に玉藻として扱ってもらう。
「陸軍としてもお二人の意見に賛成ですが、角の大量持ち帰りに玉藻様が関与していると知ったら会わせろと言わぬ訳がありませんからな」
「まず肝要なのは、英国から最大限の情報を引き出す事じゃな」
俺としては特に陸で大砲を運用しているかや戦車が実用化されているかを知りたい。欧州で使われているならば、それが極東に持ち込まれる可能性もあるのだ。
海に囲まれた日本に持ち込むには船を使うしかなく、外務省や海軍の目を盗んで持ち込むのは難しいだろう。
しかし海軍がやらかした今、俺は無条件に海軍を信じる事は出来ない。大陸からのスパイが入り込んでいたという事実も海軍への信頼を損なわせている。
「失礼します。もうすぐ英国武官の方が到着されます。会議室に移動をお願い致します。玉藻様、こちらのスクリーンで会議室の様子をご覧になれます」
三人を呼びに来た職員が壁に付けられたパネルを操作すると、壁の一部が動いて液晶モニターが現れた。画面には誰も居ない会議室が映っている。
少しするとこの部屋を出た三人が会議室に入ってきた。程なくして英国の二人も入室する。二人は鈴置中将と太政官さん、侍従長さんと握手を交わして適当な席に着いた。
そこに秘書官を連れた外務大臣が入室してきた。これで話し合いに参加するメンバーは全員揃った事になる。
「前回、我々は欧州における銃の使用状況を説明する予定でした。しかし、不幸な事故により果たさなかったのでお話させていただきます」
「不幸な事故って、テンション上げたあんたが滝本中尉にいきなりプロポーズしたのが悪いんじゃないか」
出だしからコンビ漫才やってるけど、この二人関西人の血が入っているのだろうか。曽我部少佐は日系だから、その可能性が高いかもしれない。
「仮にも公式の場で上官をあんた呼びするなや」
「前回の会談で上官として相応しい言動を取ったか、胸に手を当ててよーく考えてみな」
ぶっちゃけ曽我部少佐の言う通りだし、いきなり求婚された俺としてはその意見に賛成ではある。しかし、他国の外務大臣と王宮責任者を前にしてやって良い会話ではない事も事実だ。
「コホン、出来れば本題に入りたいのだがよろしいだろうか?」
「「はっ、はい」」
呆れた顔の外務大臣に促され、会談は本筋に戻る事になった。外務大臣、グッジョブ。あのまま漫才を続けられていたら、俺は迎賓館に帰っている所だったよ。
鈴置中将なんてどう反応して良いか分からずに、ずっと地蔵状態だったもんな。俺はあの場所に居なくて良かったとつくづく思うよ。




