第五百六十話
「英国から情報を引き出すのは確定として、どこまで玉藻様の情報を開示するかが問題ですな」
「玉藻の関与は開示して構わないでしょう。前回の会談でもそこまでは開示するつもりでしたし」
前回の会談で英国の武官が暴走した為有耶無耶になってしまったが、本来ならば銃に関する情報と引き換えに玉藻の関与を公表する予定だった。なのでそこまで公表するのは既定路線となる。後はどこまで開示するかだ。
「全てを開示するのは反対です。隔離された安全な空間を作り出せるなんて知ったら英国はどんな行動に出るやら・・・」
「玉藻様を英国に拐うまではしなくても、最低でもしつこく派遣要請されるだろうな」
その際の窓口は外務省になるだろうから、この場のメンバーに直接的な被害は少ないかもしれない。だが、外務省職員にかかるストレスは激増するだろう。
「玉藻様が関与している事、物資を大量に運べるスキルを所持している事くらいが妥当でしょう。それでも派遣を打診して来るかもしれませんが・・・」
「大量に角を持ち帰れた理由になる情報を渡さないと英国は引き下がらないでしょう。当日、念の為玉藻様に同席をお願いしたいのですが」
「本人に会わせろとゴネるかもしれませんからね。当日は玉藻になって同席しますよ」
宮内省にも陸軍にもお世話になっている。少しは恩返しをしないとね。
「最後に、皇女殿下がダンジョンに入る事を望まれていると報告が来ましたが、殿下は戦闘系のスキルを授けられたのでしょうか?」
侍従長さんの質問に答える事が出来ず、俺は関中佐を見る。アーシャと舞のスキルを知るのは家族と関中佐のみ。どこまで開示するかは情報の専門家である関中佐に一任されている。
「戦闘系ではありません。しかし、ダンジョン探索に極めて有効なスキルです。もしも玉藻様のダンジョン攻略に同行された場合、その効率は比較にならない程加速されるでしょう」
「そ、そこまでのスキルなのですか。一体どんなスキルを・・・いや、止めておきましょう」
反射的に質問してしまったが、すぐに撤回する侍従長さん。精神に作用するスキルの存在が確認されているので、本人の意志に反して情報を引き出すスキルもあるかもしれないのだ。
「そのスキルを玉藻様の迷い家から使う事は可能ですかな?もし可能ならば殿下の安全は担保されると愚考いたします」
「それは試していませんね。一度試してみる価値はありそうです」
そう太政官さんに答えたものの、出来る可能性は極めて低いと思っている。迷い家は独立した世界となっている。人間のスキルで異世界の境界を越えるのは難しいだろう。
議題が全て終わったので会合はお開きとなった。市ヶ谷に戻る車の中で関中佐と話す。
「中尉は結婚について考えていないのかな?完全な売り手市場で選び放題だが・・・」
「今は全く考えていませんね。それを考えるのは約束を果たした後になるでしょう」
運転手は玉藻の事を知らない一般兵なので、中佐は俺を普通の中尉として扱い俺も発言の内容をぼやかす。
俺は前世で結婚をしなかった。今世ではどうなるのだろう。




