第五百五十六話
何事もなく授業も終わり放課後。皇女殿下についてもっと詳しく!とか妹さんを紹介してくれ!とか一目黒ゴス姿を!と迫る生徒達を軍務があるからと諦めさせて情報部に向かう。
「おお、中尉。差し入れ美味しかったよ、ありがとうな」
「いつもの干し柿や干し芋も良いが、焼き菓子も良い。いつもありがとう」
大量のマフィンは一つ残らず無くなっており、全てが先輩方の胃袋に格納されたようだ。
「好評だったようで何よりです。皇女殿下も喜ばれるでしょう」
「えっ、ちょっ、何でそこで皇女殿下が出てくる?・・・ま、まさか」
「あのマフィン、昨日迷い家で皇女殿下が作られたのです。先輩方の感想はちゃんとお伝えしますね」
にっこりと笑顔を浮かべて伝えると、一瞬フリーズした先輩方は再起動するなり叫びだした。
「えっ、皇女殿下お手製だったの?!」
「な、なんちゅうお菓子を!」
そろそろ慣れてほしいものだが、こればかりは俺にはどうしようもない。空になったバスケットを回収して部長室に入る。
「関中佐、滝本です。報告にあがりました」
「おっ、ご苦労さん。入ってくれ」
入室許可が出たので入ると、中佐は書類の山と格闘していた。
「何だか騒がしいな」
「朝お渡ししたマフィンは皇女殿下お手製だと伝えたらああなりました」
部室が騒がしい理由を報告すると、中佐は額を机に打ち付けた。大きな音がしたので、かなり痛かった筈である。
「中尉、また畏れ多い物を・・・」
「いや、神使である玉藻のおやつを食べていて今更ですよ」
手前味噌だが、神使お手製のおやつなんてそうそう食べる機会はない貴重品だ。それを食べてきたのだからニックやアーシャの差し入れにも慣れてほしい。
「中尉の場合、仲間の中尉が神使だと判明した。だが、皇帝陛下や皇女殿下は初めから皇帝陛下や皇女殿下だからな」
「クラスメートが芸能人になったのと、芸能人が転校してきたのでは熱狂の度合いが違うようなものですか」
そう言われると少し納得してしまう。前世のネット小説でもよくあった設定だからね。
「さて、本題に入ろう。提出された動画データや現地で撮影され投稿された動画で殆ど把握はした。だが、直接中尉の口からも聞きたい」
「了解です」
俺は夜祭り会館の前以外でもナンパされた事、その時は手を出されず言葉だけで相手が引いた事も含めて報告した。
報告の内容は中佐が把握した内容と違いは無かったようで、特に中佐から質問されるような事は無かった。
「ふむ、食い違いは無いな。改めて書面での報告もしてもらうが、そちらは急ぐ必要はない。捜査は警察庁の担当だからな」
「共犯者や他の被害者の情報は聞き出せたのでしょうか」
「まだ報告が来ていないから何とも言えない。だが、我々陸軍に宮内省、外務省や内閣府からも叱責が飛んだからな。警察庁長官も必死になって調べるだろう」
直接関係がない警視総監さんは可哀想だが、これも上に立つ者の定めと頑張ってもらおう。ストレスは犯人達にぶつけてくれ。




