第五百五十一話
迎賓館に戻った後、舞とアーシャを置いて情報部に報告に行くつもりだった。しかしスマホに関中佐からのメッセージがあり、明日電話するまで待機との指示が下った。ただ、舞が撮っていた動画のデータは送ってほしいという事でその作業だけは土曜日のうちに終わらせた。
「昨夜送られたデータは確認した。まあ、SNSに出ている物だけでも何があったかは一目瞭然なのだけどね」
実は、舞のデータを送る前から秩父での状況は中佐も把握出来ていた。複数の人が撮っていた動画をSNSに上げた為、複数の角度から一連の出来事を見る事が出来たのだ。
「正直、もううちも宮内省もやる事はほぼ無い。昨日の時点で警察庁に抗議を入れてあるから、事件の後始末と犯歴や共犯者の調査は警察庁と県警の仕事だ」
「介入出来ると思いますが、やらない方が無難ですね」
被害者に現役陸軍中尉と宮内省預かりのロシア皇女殿下が居るのだから、捜査に口を出しても警察庁は拒否出来ないだろう。しかしそれは警察庁を信用していないという表明に近い行為なので余計な軋轢を生む可能性が高い。
「そういう事だ。中尉はそちらにも理解があるから助かる」
全てを警察庁に任せる事で、宮内省と陸軍は警察庁に貸しを作る事になる。組織としては他組織への貸しは多ければ多いほど良い。
「あと、残念な事に下火になりかけていたマスコミの取材が再燃している。出来るだけ外出は控えてくれ」
「了解です。今も門の前はマスコミややじ馬で埋まってますよ」
と言うものの、門の前どころか門の中にも人が大勢入っている。これは入場券を買った見学客を入れない訳にはいかないからだ。今日は入場券の売り上げが凄まじい事になるだろう。
「舞とアーシャにも建物から出ないよう伝えます。マスコミが見学客に紛れる可能性は高いでしょうから」
「そうだな、不便をかけて申し訳ない。皇女殿下と舞ちゃんにも伝えてくれ」
関中佐が謝罪するが、元はと言えば俺達に降りかかったトラブルが原因なのだ。
「そうそう、広報から言われたのだが、幾つかの芸能事務所からスカウトの話が来たそうだ」
「俺はお断りです。アーシャと舞には一応聞いてみますが、断るでしょうね」
俺は軍務があるので当然ながらお断り。アーシャも立場的に芸能人をやるのは無理だろう。確実に宮内省から止めてくれと泣き落としされる。
唯一可能性があるのは舞だが、舞も芸能人に興味は無さそうだからな。でも俺やアーシャと違ってやろうと思えば出来るから話は伝えて確認しよう。
「情報部には月曜日の放課後顔を出してくれれば良い。今日はゆっくり休むように」
「ありがとうございます。では、月曜日に直接報告させていただきます」
さて、中佐から外出自粛を言い渡されたので暇になってしまった。アーシャと舞に今の話を伝えた後は何をしようか。
取り敢えず、減った干し芋や干し柿を補充して海で何が釣れるか試してみようか。部屋から出なくても海に行けるのだから、迷い家さんは本当に便利だね。




