第五百四十七話
「それじゃあどうするの、お姉ちゃん」
「そこはちゃんと手を打ってある。そろそろ来る頃だと・・・あっ、来たみたいだ」
天井の赤灯を回しサイレンを鳴らして駆けてくる数台の自動車。それらは町中で見るような車種ではなく、ナンバープレートも普通の物とは異なっていた。
緊急車両の到着に周囲を囲っていたやじ馬が慌てて道を開ける。そこを通った車両達は俺達の前で止まり乗ってきた軍人を吐き出した。
「陸軍情報部の滝本中尉殿ですね、本官は熊谷基地所属の熊谷少尉であります」
「情報部の滝本です。少し想定外ですが、こいつらの確保もお願いします」
「はっ、見張りに一隊残します。そいつらに見張らせて熊谷から出ている追加部隊と共同で連行させます」
熊谷基地の熊谷少尉はテキパキと指示を下し不良警察官二人とはんてん三人衆に縄を打った。尚、話している最中にも隊員が俺達の周囲を囲い警護体制を整えている。
「お姉ちゃん、この人達は?」
「陸軍熊谷基地の人達だ。皇女殿下の素性がバレた際のバックアップを依頼しておいたんだよ」
彼等には不測の事態に備えて目立たぬよう分散して待機してもらっていた。俺が情報部に連絡した事で彼等にも出動要請が下され、集合して駆けつけて来てくれたのだ。
「皇女殿下、こちらの車にお乗り下さい。中尉殿と妹さんもこちらに」
「ありがとう、少尉。そいつらの事は頼みます」
居残る部隊の人に犯人達を託し、少尉に指示された車に乗る。乗る前に着せ替え人形でワンピースに戻すのも忘れない。黒ゴスのままだと大盾が邪魔になるからね。
前後を護衛の車に挟まれ車は動き出す。左右には軍用バイクが付き従い警戒している。
「随分と物々しいわね」
「本来、皇女殿下の外出にはこれ以上の警護が付くのが当たり前。実績があるとはいえ、私だけで警護というのは異例中の異例なのよ」
待機時に目立たない数という事でこの量だが、そうでなければもっと多くの警護が付かなければならない。これでも控え目なのだ。
車列は順調に走り、無事に熊谷の陸軍基地に到着した。前世では航空自衛隊の駐屯地があった場所だ。春には桜祭りが開催され、一般の人達にも公開されていた筈。
進む先で多くの軍人が列をなし直立不動で待機している。車はその人達の前まで走って止まり、それに合わせて軍人達が一斉に綺麗な敬礼を見せた。
まずは俺が車から降り、次にアーシャが。最後に舞が降りる。舞が最後なのは、もしも不測の事態が起きた時にアーシャを車内に引っ張って安全を確保する為だ。
「基地司令の木原少将であります。皇女殿下、よくぞご無事で」
「ありがとうございます、木原司令。皆さまのおかげで無事に窮地を脱する事が出来ました」
基地司令の挨拶をアーシャが受けて答える。事務的と言うかテンプレなやり取りだけだけど、司令以下基地の軍人達は美少女皇女殿下の来訪に顔が弛むのを堪えきれていなかった。
まあ、帝都から中途半端に離れた基地に皇族の方が来訪されるなんて滅多に無いだろうからな。しかも頗る美少女なのだ。少々浮かれてしまうのも無理はないか。




