第五百四十六話
「そ、そういう事なら正当防衛だったと認めてやる。些細な行き違いで事件性は無かったという事にしてやろう」
「何故上から目線なのが理解に苦しむが。護衛任務中故俺達は追及しないが、報告は上に上げる。しっかり調べられるだろうよ」
まだ自分達の立場が上だと思っているのか、横柄な態度の警察官。現実を教える為にも死刑宣告をしておこう。
「なっ、ちょっとしたナンパを大ごとにする必要はなかろう!」
「あんた、周囲の状況見えてるか?俺達に向かってスマホ構えてるのが何人居る?ライブやってる奴が居たら、この状況は全国津々浦々まで配信されてるぞ」
SNS全盛のこの時代、不良警察官と皇女殿下のトラブルなんて美味しいネタを使わない方がどうかしている。ライブをやっている人はさぞかし数字を稼いでいるだろう。
「それにな、先程電話していただろう?あれは陸軍情報部と宮内省だ。もう手遅れなんだよ」
「そっ、そんなぁ・・・」
皇女殿下が巻き込まれたのだ。これまでの犯行も含めて徹底的に調べられるのは間違いない。そしてこれまでの犯行数や共犯者まで自白させられるだろう。
不良警察官ががっくりと膝をつき、はんてん三人衆の二人も放心状態となった。舞とアーシャも緊張感から解き放たれて安堵のため息をつく。
「良い判断だ。終わったと思わせて気が抜けた瞬間の奇襲。しかも声を出さずに無言での攻撃は高評価に値する。しかし、残念な事に気絶した振りが不自然に長かった。そこだけが減点要素だな」
俺に投げられ気絶していたはんてん三人衆の一人。そいつがナイフを懐から取り出し投げてきたのだ。そいつを警戒していた俺は女性体を発動、大盾でナイフを弾いた。
弾かずとも避ける事は出来たが、舞のスキルで不自然な軌道になるかもしれなかった。複数人に撮影されている現状で舞のスキルを気取られる要素は無い方が良い。
「舞、奇襲する時はああやって無言でやるのが正しいからね。『お前も道連れだっ!』とか叫んだら奇襲の意味が薄れるからダメだよ」
「うん、お姉ちゃん。勉強になるわ」
「滝本中尉、舞ちゃん。今はそんな事を言っている状況ではないのでは?」
アーシャから至極尤もなツッコミが入るが、現状やるべき事は無い。ナイフを投げてきた奴は大盾で地面に押し付け無力化しているし、残りの連中は攻撃してくる気力は無さそうだ。
「白いワンピースも良いけど、お姉ちゃんはやっぱり黒ゴスね」
「イメージが定着しそうなんだよなぁ。今もこの姿になった時に歓声が上がったし」
大盾とセットで登録していたのが黒ゴスだった為、今の俺は黒ゴスに大盾という装備をしているのだ。
「それで中尉、この人達はどうするので?地元の警察に引き渡すのですか?」
「いえ、警察内部にも共犯者が居ると考えるのが妥当です。はんてん三人衆が事件を起こした際、駆けつけるのが常にこの二人とはならないでしょうから」
恐らく署内に協力して甘い汁を吸っている奴が居るだろう。それが末端の警官だけなのか、管理職にまで及んでいるのか。どちらにしてもこいつらの身柄は同所轄に引き渡す訳にはいかない。




