第五百四十五話
「お前が陸軍の軍人だという事は認めよう。だがな、軍人だろうと犯罪を犯せば罰を受ける。それが帝国の法というものだ。スキルを使っての傷害を見過ごす訳には行かない」
「おや、可怪しな話を。俺がスキルで傷付けた前提で話しているが、その証拠は?」
「善良な市民からお前が暴力を奮ったと通報があった。実際、罪もない青年が倒されている。それが動かぬ証拠だ」
本当にそんな通報があったのか?とか青年に罪が無いと何故判断出来た?とか倒した際にスキルを使ったと何故言い切れるのか?などツッコミ所が満載な言い分だ。
「理論的に破綻しまくってるな。これを見てどのスキルを使って倒したのか明言出来るか?」
俺がステータスを開いて見せると、警察官二人は何も言い返せなかった。それが何故なのかやじ馬にも分かるよう説明しておこう。
「おや、どのスキルを使ったか教えてもらえませんか。まあ無理でしょうね、俺には戦闘系のスキルが無いのだから」
ステータス画面に表示されているのは着せ替え人形と女性体の二つ。それをどう使って暴力を奮うというのか。
「例えスキルを使わなかったとしても、暴力を加えた事に変わりはない。まさか軍人だから一般人を痛めつけても問題ないなんて言わぬよな?」
「そんな事は言わないが、腕を掴もうとされた故の防衛行動だ。些かダメージが大きかったようだが、任務が任務だからな」
「任務、だと?」
女性姿な上に私服で観光していたのだ。任務中だと言われても可怪しいと思うだろうな。
「話が脱線したが、身元確認の途中だったな。彼女は俺の妹だ。そして、彼女が護衛対象のアナスタシア・ロマノフ皇女殿下だ」
「お、皇女殿下、だとっ!」
俺がアーシャの名を告げると同時にかつらを外すアーシャ。見事な銀髪は彼女が日本人ではない事を物語っている。
「お忍びで視察されているアナスタシア殿下を護衛中、不埒な者に手を出された為無力化したまでだ。もし疑うならば陸軍にでも宮内省にでも問い合わせるがいい」
「それなら何故所轄に話を通さない!皇女殿下が来訪されるならば事前に通達があって然るべきだろう!」
そんな事をしたら県警が出張ってきてガチガチに護衛を付けるに決まっている。それを是としないから通達をしなかったのだよ。
「大仰な護衛を連れて行う視察と、身分を隠し自由に見聞する視察では見える物が違うからな。今回のように官憲だからと無条件で信用出来ないという所まで知られてしまった訳だが」
「中尉、私は日本の方にも悪意を持つ方が居る事を知っています。しかし、大部分の日本人は善良で誠実な方々である事も知っています」
「殿下にそう言っていただけるのは幸いですが・・・」
はんてん三人衆の二人と警察官二人は顔面蒼白状態になっている。相手が一般人や多少の力がある家程度ならば警察の権力で事件を改竄出来るのだろうが、相手がロシア皇家ではそんな事は出来やしない。
これまで散々好き放題してきたのだろう。ここらが年貢の納め時だと観念して欲しい。




