第五百四十四話
手慣れた様子から、以前にも同様の手口で女性を毒牙にかけている可能性が高い。その人達の為にも、これから被害者を増やさない為にも叩いておく必要がある。
今回のお忍び用に、舞の服には超小型カメラが仕込まれていて状況を記録するようにしている。データは舞のポシェットに仕舞われたメモリーカードに転送されていて、一日分ならば楽に保存できる容量があるらしい。
「それは任意同行ですよね。勿論、お断りさせていただきます」
「こちらも仕事なのでね。身元の知れぬ不審者を放置は出来ないんだよ」
あくまでも警察官としての公務で同行させると言い張る不良警察官。そちらが権力を盾に言うことを聞かせようと言うのなら、こちらも権力で対抗させてもらおうか。
とはいえ、ここで俺達の素性を独断で明かす訳には行かない。なのでスマホを取り出しまずは情報部に連絡を入れる。関中佐は不在だったが、先輩から許可を得る事は出来た。
続いて宮内省。太政官さんの個人的な番号を聞いてあったのでそこにかける。彼はお休みで家族サービスをしていたそうだが、邪魔する事になってしまった。今度差し入れをしておこう。
「どこに電話していたのか知らないが、今更誰に泣きついても遅いぞ」
「何か裏があるかもしれない。じっくりと取り調べする必要がありそうだ」
二人の警察官は自分達の優位を疑っていないのか、俺が電話するのを邪魔する事も無くニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべて待っていた。その余裕が命取りになるのだがな。
「その必要はありませんよ、私のバックはすぐに分かりますから。私は大日本帝國陸軍中尉、情報部所属の滝本優と申します」
周囲を囲っていたやじ馬からざわめきが起こる。警察官の一人は訝しげな表情だが、もう一人は俺を指さして固まっている。
「は?お前のようなガキが陸軍中尉?尉官になるのにどれだけかかると思ってるんだ、嘘をつくなら少しは調べておくんだな」
「えっ、あの警察官知らないの?」
「あんなに話題になったのに・・・」
嘘だと断言した警察官に対してやじ馬から呆れた声が漏れていた。確かに俺みたいな年齢で中尉にまで昇るなど、普通ならば起こり得ない。だけど、普通じゃない存在がここに居たりするんだよ。
「おいっ、今年の初めに亡命していたロシア皇帝陛下と皇女殿下をお助けした少年のニュースがあっただろうが!」
「ああ、あったな。だがあれは少年で少女では無かっただろ」
「その少年、女性になるスキル持ちだっただろ!お前黒ゴス姿をテレビで見て蹂躙したいって言ってたじゃないか!」
固まっていた警察官の方は俺のニュースを覚えていたみたいだ。この姿の俺を見ても気付かなかったのは、黒ゴスのイメージが強かったからかな。前に関中佐が言っていたように効果はあるようだ。
「そっちの警察官の言う通りですよ。これが本来の姿でね」
俺は女性体を解いて男性に戻る。纏っている第二種軍装が俺が軍人と主張している。さあ、追い詰めていくとしようか。




