第五百四十三話
「あっ、そういうのは間に合ってます」
「おいおい、せめて自己紹介くらいはさせろよ。俺達秩父では有名なんだぜ!」
スッパリと断り夜祭会館に入ろうとしたが、回り込まれて阻止されてしまった。ドヤ顔してるけど、本当に有名だったとして秩父限定の名声にどれだけの価値があるのやら。
「俺達ははんてん三人衆!はんてんのスキルを与えられた選ばれし者だ!」
告げられたスキルを聞いて警戒度を上げる。反転のスキルが物理的な物限定ならば舞のスキルの下位互換と言えるが、物質のみならず精神にまで交換が及ぶと厄介な事になる。
意思や思考を反転させられて「付き合うつもりは無い」という意思が反転されて「付き合う」にされてしまうかもしれない。
「驚いたようだな。俺のスキルは斑点。触れた物の柄を斑点に出来る!」
得意げに話すはんてん三人衆の一人目。反転じゃなく斑点かよ。まさか残りの二人も同じような感じなのか?
「俺様のスキルは半纏だ。半纏を着ると身体能力が一%上昇する!」
「・・・それは半纏を着ていないと効力が無いのでは?何故貴方は半纏を着ていないのでしょう?」
「祭りでもないのに半纏着るとか恥ずかしいっしょ!」
スキルを聞いたアーシャの素朴な質問に、恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら答える三人衆その二。この分だと残った一人のスキルも反転ではないような・・・
「はんてん三人衆最後のこの俺のスキルははんぺん、短時間ではんぺんに味を染み込ませる事が出来るのだ!」
「あ〜、はいはい。舞、アーシャ、それじゃ行こうか」
「いやいやいや、ちょっと待ってよ。『それはんてんじゃなくはんぺんだろっ!』とかツッコミ入れてくれないの?」
お笑い芸人三人衆が何やら騒いでいるが、聞いてやる義理はない。三人の脇を通って会館に入ろうとしたら、一番近いはんぺん男が俺の腕を掴もうとしてきた。
「手を出して来るなら反撃しますよ。痛い目に遭いたくなければ大人しく諦めて下さいね」
伸びてきた手を半身になって躱し、引っ張って勢いをつけると同時に男の足を払う。体を支えられなくなった男は勢いのまま前方に転がった。
「てめえ、こっちが優しくしてれば付け上がりやがって!」
「こんな恥をかかされたら黙って引っ込むなんて出来ないんだよ!」
仲間が転がされたのを見て残った二人は懐からナイフを取り出した。止めておけば良いものを、刃物まで出されたらこちらも相応の対応をするしかない。
「警察だっ、何があった!・・・またお前らか。やんちゃも程々にしとけよ」
「お巡さん、すいませんね。俺達、優しくナンパしてただけなんですが暴力を振るわれて・・・」
素早くナイフをしまった男が馴れ馴れしい口調で警察官と話す。こいつら、こういうトラブルは常習みたいだけど警察官は馴れ合ってないか?
「そうか。じゃあ署で話を聞く必要があるな。彼女らの身元は後で伝える」
「警察官が個人情報の漏洩を率先して行うと?」
「犯罪の被害者が加害者を訴えるのに必要だろうが。さあ、来てもらうぞ」
馴れ合ってるとは感じたけど、まさかここまでとは。こりゃ穏便にとはいかなそうだな。




