第五百四十二話
「うっわ、凄い美少女」
「芸能人かな?でもテレビで見た事無いな」
周囲の注目を集めながら手水舎で手を清め、神門を潜り本殿に参る。手を合わせて目を閉じると脳内に声が響いた。
『よう参ったな、宇迦之御魂の眷属よ。そなたの活躍には注目しておる。智謀にも期待しておるぞ』
『八意思兼命様、ありがとうございます。ご期待に添えるよう精進致します』
何らかのアクションはあるかもと思っていたので、声に出さずに心の内で返答しておいた。それに対する御言葉は無かったが、満足そうな感情が伝わってきたので良かったのだろう。
「ね、ねえ、一緒に遊ばない?観光スポットとか案内するよ」
「地元の美味しいお店とかも知ってるし、お昼奢っちゃうよ」
参拝を済ませ、タクシーに戻ろうと大鳥居を潜った所で二人組に話しかけられた。下心見え見えのナンパなど拒否以外の選択は無い。
「タクシーを待たせているので。運転手さんが案内してくれるから必要ありません」
辺りを見回すと、運転手さんが停めたタクシーの横に立ち手を振って合図してくれていた。俺は舞とアーシャを先に行かせ殿を務める。
「ちょっ、そんなつれない事を言わないで!」
「タクシーの運ちゃんも知らない穴場を教えるから」
追い縋りながら口説いてくる男達を無視してタクシーに乗り込む。未練がましく手を伸ばすナンパ男を尻目にタクシーは走り出した。
「やはり不埒な男が居ましたね。大丈夫でしたか?」
「ええ、口説くだけで手は出されませんでしたから」
相手が手を出してきたらこちらも実力行使に出たのだが、そこまではされなかった。それに、彼等は俺達が大鳥居を潜ってから声を掛けてきた。神域である境内では自重していたという点は評価してあげよう。
車は線路を渡り山道を登っていく。同じ道を行く車は結構居て、次の観光地の人気の高さが伺える。程なく駐車場に到着したが満車となっていて、臨時駐車場に回された。
「うわぁ、秩父市内が一望できるよ!」
「凄く綺麗です」
秩父を見下ろす山中に作られた羊山公園。ここからの眺めは壮観だが、この公園の凄さはまだあるのだった。
「お花の絨毯・・・」
「こんなに広い場所一面にお花が・・・」
広い敷地は白や赤、ピンクの芝桜で埋め尽くされていた。あちこちで写真を撮る観光客の姿が見える。俺達も幾つかの場所で写真や動画を撮影した。
タクシーに戻り、昼が近いので美味しいレストランに案内してもらった。舞とアーシャは人気ナンバーワンだというオムライスを、俺は人気ナンバーツーだというカツカレーをいただいた。
そして最後の観光先、夜祭会館でタクシーを降りた。ここから駅までは近いので、タクシーはここまで。降りる際に探索者証のクレジット機能で精算を行った。
「うわっ、凄い可愛い!」
「お嬢ちゃん達、俺達と遊ぼうぜ」
「俺達はこの辺りの顔だからな」
夜祭会館に入る前に軽そうな男三人組に声をかけられてしまった。さっさと追い払おう。




