第五十四話
「忘れ物は無いか?出発するぞ」
今日は待ちに待った旅行の日。朝早くに起きて八人乗りの魔石車に乗り込む。エンジンを使わない魔石エネルギー駆動の魔石車は音もなく走り出す。
「お腹減ったら言うのよ、お弁当があるから」
「それは楽しみだ。母さんのお弁当は美味しいからなぁ」
出発が早いので、朝食はお腹が減ったら母さんが作ったお弁当を食べる事にした。コンビニでは味気ないし、店屋は時間が早いのでやっていないだろうと考えての事だ。
「お兄ちゃんのサラダもある?私、あのトマト大好き!」
「胡瓜も入れてきたわよ。優ちゃん、どこの直売所で買ってきてるの?」
「あはは、それは秘密と言うことで」
亀狩りの時にトマトと胡瓜を持ち帰ったのだが、これが美味しいと好評で毎回持ち帰ることになった。まさか迷い家の畑から取ってきましたとは言えないので誤魔化す。
車は国道を北上していく。この世界にも高速道路は存在するのだが、今回は使用しない。目的地の近くにインターチェンジもあって便利なのだが、普段運転しない父さんが高速運転に尻込みした為だ。
法定速度を遵守して走るうちの車の脇を、追越車線からトラックが追い抜いていく。この国道17号線沿いには工業団地も点在しているのでトラックが多い。
「お兄ちゃん、帝産自動車よ。大きい!」
「ここでトラックを作ってるのかな」
舞は道沿いにある店舗や工場に目を輝かせはしゃいでいる。斯くいう俺も少しテンションが上がっている。普段と違う風景を見られるのは楽しい。
「これはどちらに行くか・・・」
「向こうはトラックが多いからこっちにしましょうよ」
国道が旧道とバイパスに別れる分岐点で、協議の結果旧道を選択した。バイパスはトラックが多くて恐いし、市街地を通る方が面白そうだ。
「そろそろ腹が減ったな。休憩にしよう」
途中のコンビニで止まり、朝食タイムをとる。駐車場を借りるだけというのも申し訳ないので、人数分のお茶を買ってくる。
お弁当を開き皆で食べる。胡瓜用に味噌まで用意されていたので味噌を付けて美味しく食べた。迷い家のストックに味噌も追加しなければ。
残さず食べ終わり再出発。国鉄の線路と並走して北上していく。
「父さん、その村は僻地という程の場所じゃないよね。何で後任の医師が決まらないの?」
「ああ、その村は近くにダンジョンがあってな。特殊なモンスターが出る階層があるらしくて誰も行きたがらないそうだ」
地名から検索するとすぐに調べる事が出来た。その村は1999ダンジョンが近くにあるのだが、特殊モンスターが出現する。
普通なら希少なドロップを得られるダンジョンとなるのだが、そこに出現するのはゴーストというモンスター。幽霊なので物理攻撃は効かず、魔法スキル持ちだけが対処出来る。
魔法スキル持ちは少ないので一般のパーティーは倒す事が出来ず、他は特色も無く群馬の奥地まで行く利点も無いので過疎ダンジョンとなっている。
物理攻撃しかない(事になっている)俺が潜っても利は無さそうだし、家族とゆっくりさせてもらおう。




