第五百三十八話
「むうぅぅ・・・」
「むうぅぅ・・・」
迷い家の居間で俺の尻尾を抱いて抗議の目を向けてくる舞とアーシャ。ダンジョンから帰っても二人の機嫌は直っていなかった。
「ほら、舞ちゃんもアーシャちゃんも。玉藻ちゃんはお仕事だったって分かっているのよね?」
「分かっちゃいるけど・・・」
「何だかモヤモヤします」
二人とも頭では仕方ない事だと理解しているのだが、感情が納得していないという感じだ。因みに、二人を諌めている母さんも尻尾を抱きしめている。
「舞もアーシャも、ほっぺた膨らましても可愛いだけだぞ」
「か、可愛い、です?」
「お兄ちゃん、褒めても尻尾のお手入れしか出来ないわよ」
顔を真っ赤にしてあたふたするアーシャに冷静を保とうとするもアーシャと同じく顔が真っ赤な舞。照れる姿も可愛くて眼福です。
「それじゃあ、次の週末に三人お揃いの服でお出かけしたい。前みたいなパーカーじゃなくワンピースでお洒落して!」
「お出かけか。それならばって・・・ワンピース?」
うっかりすぐに了承しそうになったが寸前で思い留まった。それを了承するには二つの問題があるのだ。
まずは、アーシャが衆目に晒されれば人が集まり収拾がつかなくなってしまう事だ。上野ではフードを深く被って見えにくくしたのでバレなかったが、ワンピースでは綺麗な銀髪で外国人だとすぐにバレる。
そして銀の髪に透き通るような白い肌とくれば北欧かロシア系とすぐにわかる。日本に滞在している北欧系かロシア系なんて殆ど居ないので、アーシャだとバレるだろう。
次に、俺もワンピースを着るという事だ。男のままでそれを着る、即ち女装する趣味は俺には無いので女性体で行くという事になる。
「舞、アーシャの髪を隠す必要があるから前と同じパーカーで・・・」
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。舞には秘密兵器があるのです。アーシャちゃん、あれを」
尻尾をモフる手を止めて舞がアーシャに合図をすると、アーシャはどこからか取り出した物を頭に被る。それは黒髪のかつらだった。
「成る程、かつらか。銀髪から黒髪になるだけで随分とイメージが変わるな」
「でしょう、これならアーシャだってばれないわ。侍従長さんにはかつら装備とお兄ちゃんの護衛があれば外出しても良いって許可ももらったの」
何と、既に侍従長さんへの根回しも済んでいた。それなら三人で外出する事に問題は無さそうだ。
「だがな、お兄ちゃんもワンピースを着るのはまずい。アーシャの護衛をする以上、動きやすい服装で居る必要があるからね」
ワンピースのようにヒラヒラした服装では防御戦闘を行う際に行動が遅れる可能性がある。なので別の服装、出来れば男の服を着るのが望ましい。
「お兄ちゃんは着せ替え人形ですぐに服を変えられるでしょう。舞の慣性制御もあるから大丈夫よね?」
「ソウデスネー、キセカエニンギョウサンナライッシュンデスネー」
渾身の説得も一瞬で論破されてしまった。優秀過ぎる俺と舞のスキルが仇になるとは・・・




