第五百三十六話
デンシカを狩って三日目。続けて狩っているのでデンシカの動き方や攻撃にも慣れてきた。そして、慣れてくると自覚していない慢心を生む時がある。
「回避!」
「もうやってます!」
久川兵長がデンシカに狙われ、冬馬軍曹が叫ぶ。一瞬遅れて気付いた久川兵長は叫ばれると同時に回避に入っていて、間一髪で雷撃を避ける事が出来た。
俺はデンシカが攻撃した瞬間に三方から神炎をぶつけていた。二発は避けられてしまったが、一発は命中。デンシカは角を残して消え去った。
「軍曹、そろそろ戻ろうかと思うのじゃが」
「そうですね、予定より少し早いですが目標以上の角は集まりましたし」
俺が撤退を言い出した理由に気付いたのか、久川兵長は何か言いたそうだった。多分、油断しただけだからまだやれるとでも言いたかったのだろう。
しかし、二十階層台のモンスター相手に油断は命取りとなる。「まだやれる」と思い込んで「手遅れ」となったら取り返しがつかないのだ。
「バイクも何度かの至近弾でガタがきておるじゃろう、無理をして怪我でもされたら困るでな。お主らに替えはきかぬのじゃ」
デンシカの電撃が自然の落雷に比べて遅いとはいえ、生身で走って躱し続けられる程遅くはない。俺が使っていないバイクという予備があるが、それは保険でありそれを当てに戦ってはいけない。
俺は迷い家を開いて三人を収容し、二十五階層に戻る渦へと走る。付近のデンシカは狩り尽くしていたので接敵せず、道中は順調だ。
帰りも二泊して地上に戻る。夕方になる予定だったが、早めに戻ったので昼前に地上に戻る事が出来た。二階層で三人を迷い家から出し滝本優に戻る事も忘れない。
「お疲れ様です、皆無事のようで陛下も安堵されるでしょう。予定より早いようですが・・・」
「無事に戻りました。目標より多めに確保したのでそこはご心配なく」
角は陸軍で独占とはならず、宮内省と分けるらしい。売却する先も予定しているのだろう。駆けつけてきた太政官さんの顔に安堵の色が浮かんだ。
「角は後程陸軍から届ける予定でしたね。我々は市ヶ谷に戻ります」
「では車両を手配しよう。暫し待たれよ」
俺達は太政官さんが手配してくれた車に乗り市ヶ谷に戻った。真っ直ぐに情報部の部室に向かう。
「滝本中尉が戻ったか、お帰り!」
「ただいま戻りました」
先輩達からの声に返事をしつつ部長室に入る。入室すると書類に目を通していた関中佐が顔を上げた。
「ただいま戻りました。角は目標数以上確保してあります」
「順調だったようだな、怪我もないようで良かった。角と魔石はそこに置きたい。早速頼めるか?」
「了解です、迷い家を開きます」
「おい、搬出を手伝ってくれ!」
予定通りの行動なので断る理由はない。玉藻になって迷い家を開く。中佐は角を運ばせる為に部員を呼んだ。
「角と魔石の搬出ですね」
「こりゃまた、随分と集めて来たものだ」
手隙の先輩達が迷い家に入り角や魔石を運び出して行く。数があるとはいえ、十人程でやればそう時間はかからない。
「数字で見るのと実物を見るのでは大違いだな。四人とも良くやってくれた。ゆっくりと休んでくれ」
ここから先は俺達は関与しない。一週間に渡って行ったデンシカの角回収ミッションはこれで終了したのだった。




