第五百三十五話
少し頑張って十七階層まで進み、初日はここで一泊する事にした。この階層を選んだ理由は滝本優としての最大到達階層がここだからだ。
「明日からは優ではなく玉藻で通す故、そのつもりでな」
「はい。このモフモフな尻尾を愛で放題になるのですね」
夕食後明日からは玉藻のままでいると告げたのだが、冬馬軍曹の返事がこれである。因みに、三人は一本づつ俺の尻尾をモフっている。
二日目は三人を迷い家に入れたまま俺だけが走る。ここからのモンスターは相手をしていると時間を食われるので、空歩を駆使して避けて行った。
それでも倒さざるを得ないモンスターも居たので、その時は倒して進んで行く。目的地である二十六階層に着いたのは二日目の夕方だった。
「久し振りだけど、三人共大丈夫?」
「昨日迷い家で練習してきましたから大丈夫です」
三人は迷い家から出したバイクにまたがっている。三人の身体能力ではデンシカの雷撃を躱せない為、バイクを使って避けようという作戦だ。
「井上、右から追い込んで」
「了解です」
冬馬軍曹の指示を受けた井上兵長が回り込んでデンシカの逃げ道を誘導する。彼女らはバイクを運転する為に武器を持っていないのだが、デンシカは奇妙な物体に乗り追いかけてくる人間を警戒して逃げている。
「そのままそのまま・・・よし、命中じゃ!」
三人の追い込みで逃走ルートを固定し、俺が神炎で焼く。それを繰り返して魔石と角を集めていった。
「これ、玉藻様の迷い家が無かったら持ち帰るの大変ですね」
「大変どころかこんなに持ち帰れないわよ」
迷い家の一角に積まれた魔石と角を見て呟いた久川兵長に冬馬軍曹がツッコミを入れた。軍曹の言う通り、俺以外ではこの量は持ち帰れないだろう。
ただ持ち帰るのではなく、帰りも戦闘をする必要があるのだ。消費した食べ物や飲料水が荷物から減っているとはいえ、荷運び担当が運べる量はそう多くないだろう。
「だからデンシカの角が高価なのよね」
「軍はこれでいくら儲けるのかしら」
「軍が幾ら儲けても、私達の懐に入らないのは確定よ」
正式な軍務として来ているので、俺達には売り上げが還元される事は無い。玉藻は軍人ではないと言えるが、大元の滝本優が正式な軍人だから多分無理だろう。
「直接懐に入らんでも、これだけの物資を調達した実績は残るじゃろう。ボーナスの査定や昇進に良い影響を齎すのではないかのぅ」
「それもそうですね。それに、ここに居る間は玉藻様の尻尾をモフり放題ですから」
冬馬軍曹の言葉にそれで良いのかとツッコミを入れたくなるが、尻尾をモフる事でモチベーションが保たれるならそれはそれで良しとしよう。
「でも、二十六階層で戦い続けるって二年前の私達に言っても絶対に信じないわよね」
「それどころか三十二階層まで到達して最高記録タイとか・・・」
「夢は寝てから言えって相手にしないでしょうね」
俺と組んだ事で三人の人生は大きく変わってしまったからな。かつて彼女らが相手にしていたモンスターとは比較にならない強敵との戦いを強いる事になってしまった。
それでも三人は俺と共に歩んでくれる事を選択してくれた。ならばそれを後悔しないようにしなくてはね。
 




