第五百三十四話
「滝本中尉、何だか疲れていませんか?」
「疲れていると言えば疲れてます」
角集めの当日。皇居の特別攻略隊が使っていた部屋で三人娘と合流するなり冬馬軍曹に心配された。井上兵長と久川兵長も心配そうに俺を見ている。
「疲れていると言っても精神的な物なので角集めに支障はありません。詳しい事はダンジョンで」
疲れている理由はプライベートな物だが、理由を話しておいた方が彼女らも安心するだろう。しかし、人に聞かれる恐れがある場所で話せる内容ではない。
全員の装備を確認してダンジョンに向かう。天皇陛下は一家で那須の御用邸に行くとの事で、前回のように待ち伏せされる事は無い。
ダンジョン入り口を守る衛士さんに会釈して渦に入る。訓練も兼ねているので、三人娘を迷い家に入れず全員で走る。
「実は、妹がダンジョンに同行したいと駄々を捏ねまして。断っても諦めないので精神的に疲れました」
「妹さん・・・確か今年スキルを授かる年齢でしたね。戦闘系のスキルだったのですか?」
走りながら疲れている理由を話す。久川兵長は舞の学年を覚えていたようで、スキルについて聞いてきた。
「ええ、戦闘に使えるスキルだったのです。同行させてステータスに皇居ダンジョンの実績が残るとマズイと説得したのですが・・・」
「ここは陸軍でも選ばれた物しか潜れないものね」
「冬馬軍曹の言う通りです。しかしダンジョンに出ず迷い家に居るからと言われまして」
迷い家から出なければ皇居ダンジョンの履歴はのこらない。なのでステータスに履歴が残るという理由では拒否出来なくなる。
「プライベートで潜るならまだしも、正式な軍務ですからね。連れて来る訳にはいきませんよ」
「迷い家から出ないなら良いのでは?私達が口を噤めば誰にも分からないし」
井上兵長の言葉に冬馬軍曹と久川兵長も頷いて同意する。確かに舞だけなら三人が協力すれば連れて来る事も出来ただろう。
「舞はいつもアーシャと一緒です。舞が来るとなればアーシャも黙ってはいませんよ」
「滝本中尉、確認の為聞きたいのだけど、アーシャってアナスタシア皇女殿下だったりします?」
「そうですよ、冬馬軍曹。もしアーシャも来るとなればニックも来たいと言うでしょう。デンシカを狩って休む為に迷い家に戻ったら皇帝陛下と皇女殿下がお出迎え。となったでしょうね」
もし舞の同行を許したらどうなったかの予測を聞いた三人は、衝撃のあまり足が止まってしまった。俺だけ先に行く訳には行かないので俺も止まる。
「よっと・・・皇帝家の二人が居ては落ち着けませんよね。だから舞の同行を断ったのです。中々諦めないので気疲れしてしまったという次第ですよ」
「ありがとうございます、滝本中尉。あっ、走りましょう」
後ろから追いかけてきていた突撃豚に追いつかれたのでカウンターで蹴りを入れて魔石に変えた。それを見て正気に返った久川兵長がお礼を言い、走ろうと皆を促した。
「中尉の家も波乱万丈な状態になってるわね」
「軍曹、神様の使徒様が身内に居る時点で」
井上兵長のツッコミに、心の中でそれを言わないで欲しいと叫ぶのだった。




