第五百三十二話
「お兄ちゃん、どうしてもダメ?」
「こればかりはダメだなぁ・・・」
お肉集めも終わり、週末から連休に入り俺は冬馬パーティーとデンシカの角集めをする為にダンジョンに籠る事になる。舞とアーシャはそれにも同行したいと言い出した。肉集めに同行出来たので味をしめたらしい。
いつもなら舞のお願いを断らない俺だが、今回は軍務なので独断で連れて行くと返事する事は出来ない。少なくとも関中佐と侍従長さんの許可を得ないといけない。
「肉集めは個人的な理由だったから同行させたけど、角集めは純粋な軍務だからな。舞を連れて行くにも陸軍の許可が必要だし、アーシャもとなれば宮内省の許しも得ないと」
お願いを断った俺を恨めしそうな顔で見つめる舞とアーシャ。何でニックまで同じような表情で俺を見るのでしょうか?まさかニックも便乗して付いてこようとしてません?
「肉集めと違って期間も長いし目的の階層も深い。まず許可されないだろう」
突撃牛を狩ったのが十一階層。今回狩るデンシカは二十六階層に出現する。そこに到達するだけで一泊か二泊する事になる。
「そう言えばニックは窓を持ってきたの?宮内省に言って手配してもらいましょうか?」
「いや、それには及ばない・・・って、窓を知っているとは博識だな」
ニックも来る気だとすると宮内省を口説いて許可を取るかもしれない。俺は兎も角冬馬パーティーの三人の気が休まらなくなるので、阻止する為に話を強引に変えた。
「優、窓って何の事だ?」
「父さん、ロシアの宗教を知ってる?」
「えっ・・・考えた事無かったな」
普通は他国の、しかも国として纏まっておらず分裂状態の国の宗教なんて気にしない。案の定父さんも母さんも舞も知らなかった。
「キリスト教だよ。欧州と違って東方正教会という宗派だけどね」
「本当に良く知っているな。東方正教会では偶像崇拝を禁じていてね。神像ではなく宗教画に祈るのだよ」
「その宗教画を窓と呼ぶ。宗教画は天国の窓という考えかららしいよ。信者は毎日窓に祈りを捧げるんだ」
俺とニックの説明を両親と舞は感心しながら聞いている。この世界の日本ではキリスト教は前世以上に馴染みがないから知らなくて当然だ。
「優君はそれを知っているから窓の事を聞いてくれたのだね、ありがとう。だが、私もアーシャも東方正教会を信仰していない。神は祖先の苦難に手を差し伸べてくれなかったからね」
「そうだったのですね。ですが、神々は人の世界に手を出せません。干渉されれば大きな影響を及ぼしますから」
神々はただ人の営みを見守るのみ。手を出せばそれを壊してしまいかねないのだから。
「しかし、私達は神の使徒である玉藻殿に救われた。心から感謝しているよ」
「玉藻は、ある意味反則技ですね」
「玉藻お姉ちゃんのモフモフは反則級!お兄ちゃん、モフらせて!」
玉藻の話題になりすかさずモフモフを要求する舞。俺は苦笑いしながらも玉藻になって舞に尻尾を差し出した。
「玉藻ちゃん、お母さんも良いわよね?」
「えっと、私も良いですか?」
尻尾をモフる三人により話はお開きとなった。今は上手く話しを逸らせたけれど、これで諦めてくれないかな。
 




