第五百三十一話
翌日の突撃牛狩りも順調に進み、目標数以上の牛肉を得る事が出来た。多めに取れた分は侍従長さん経由で陛下に献上しておこう。
お昼ご飯は伊勢海老や帆立、ウニや鯛の刺身がふんだんに乗った海鮮丼だった。ウニは岩場で獲れるし鯛は父さん達が釣ってきたのだろうけど、伊勢海老と帆立はどうやって獲ったのだろう?
「舞ちゃんとアーシャちゃんがスキルの練習がてら獲ってきたのよ」
母さんが言うには、アーシャが千里眼で獲物の場所を特定し舞が慣性制御で砂浜に打ち出した。それを母さんが桶に収容したとの事。
「伊勢海老は兎も角、帆立は動いてなかっただろうに」
「手近な所で泳いでたお魚さんを帆立にぶつけて驚かせたの」
帆立は敵から逃げる際に水流を噴射し、反動で泳いで逃げる。そうやって逃がし、泳いだ勢いを慣性制御に使ったのか。
「巻き込まれたお魚さんはいい迷惑だったな」
「それは必要な犠牲だったと言うことで」
「舞ちゃん、お魚さんはその後元気に泳いで逃げてたから大丈夫だよ」
両手を合わせて念仏を唱える舞にアーシャが突っ込みを入れる。アーシャも楽しそうで何よりだ。
「午後は予定通りダンジョンから出るから。何かあったらスマホにお願い」
「大丈夫だよ優、ここに居て危ない事なんて起きないだろう」
楽観的な父さんの返事を聞きながら戻る為に迷い家から出る。俺が心配なのは父さんとニックだ。岩場で釣りをしてて海に落ちるとかありそうだ。
とは言っても釣りを禁止するのも躊躇われる。釣りを教えたのは俺と言うのもあるし、楽しそうなニックに禁止と言い辛い。
ともあれ玉藻のままでダンジョンを駆け抜け、行く手を遮られてどうしようもないモンスターだけを倒して地上を目指す。
特にトラブルが発生することも無く、夕方には二階層から一階層に戻る渦へと到着した。母さんに無事一階層まで戻った事をメールして優に戻る。
ダンジョンから出ると入り口を守っていた衛士さんに応接室に行くよう指示された。侍従長さんが会いたいとの事。指定された部屋に行くと侍従長さんが待っていた。
「お帰りなさい、滝本中尉。成果の程はどうでした?」
「無事に目標を達成しました」
俺の返事の無事にという言葉はニックとアーシャは無事ですよという意味も込めている。侍従長さんはそれに気付いたようであからさまに気が抜けた顔をしていた。
「後程オーク肉と牛肉をお渡し致します」
「それは忝ない。陛下もお喜びになるでしょう」
用件を終えた俺はタクシーを手配してもらい迎賓館に戻った。借りている部屋で玉藻となり皆を迷い家から出し一泊二日のお肉補充ツアーは終わりを告げた。
尚、宮内省にはオーク肉と牛肉の他に大量の帆立と活きの良いハマチも届けられた。迷い家の海を知る者はその出処に見当がつき疑問を抱かなかったが、知らぬ者達は何故ダンジョン産の肉と一緒に海産物が届けられたのかと首を傾げる事になった。




