第五百三十話
「ブヒッ、ブヒブヒ!」
「・・・舞とアーシャに探してもらう必要は無かったな」
多くの創作物にあるように、この世界のダンジョンに現れるオークも女性が大好きという特性がある。更に、豚は地中に埋まったトリュフを探せる程に鼻が良い。オークもそれを受け継いでおり、女性の匂いを感知すると攫う為に襲ってくる。
そして玉藻になっている俺は身体だけは女性である。そんな俺をオークが見過ごす理由もなく、俺の匂いを嗅ぎ付けたオークは離れた場所からでも駆け付けてくるのだ。
「焼いても焼豚にならず生肉がドロップするのは助かるのぅ」
理性を飛ばして走ってくるオークを神炎さんで丸焼きにするだけの簡単なお仕事です。そして落ちた魔石やお肉を回収し、ある程度溜まったら迷い家に運び込むという誰でも出来るお仕事です。
他に狩る者が居ない為か、オークの数が多いような気がする。まあ、多少多かったとしても氾濫を起こす程ではないだろうし問題ない。
前回の攻略ではここより深い階層のモンスターを多く狩っている。ダンジョンの魔力をかなり削いだ筈なので、オークが多少増えた程度では氾濫は起きない。
夕方までオークを狩り、十一階層への渦の所で迷い家に入る。今日の狩りはここまでとして、明日の朝から十一階層で牛肉を集める予定だ。
夕食は野菜や鮎、アジを使った天ぷらだった。午後からはアジが釣れたらしい。これも父さんとニックの釣果で、二人は機嫌が良い。
「いやあ、釣りがこんなに楽しいとは。教えてくれたニックに感謝だよ」
「この楽しみを教えてくれたのは玉藻殿だ。楽しい上に美味しい。釣りは本当に良いな」
ニックに続いて父さんも磯釣りに嵌ったようだ。普通の釣り場ではこんなに順調に釣れないから、迷い家以外の釣り場に行ったら幻滅するかもしれない。
まあ、実際の所はニックは普通の海で釣りなんて宮内省が許可しないだろうし、父さんもどこかの海に行くなら迷い家で釣るだろう。迷い家ならば移動時間を考慮しなくても良いし、他の釣り人と会う事もない。
夕食の後は入浴し、舞達が待っている尻尾のお手入れタイムに突入する。
「玉藻ちゃん、尻尾が完全に乾いているけどどうやったの?」
「神炎さんで余分な水分だけ燃やした」
「玉藻お姉さんのスキル、便利すぎです」
母さんの疑問に答えるとアーシャが染み染みと呟いた。戦闘のみならず生活全般でも活躍する神炎さん、マジ有能です。
「今日は戦闘でも使ったし、神炎さん大活躍だったよ」
本来の使い方である戦闘でも多用したので、神炎さんも喜んでいるだろう。なので尻尾の乾燥に使ったのは御愛嬌だと許してほしい。
こんな感じで土曜日は終わった。明日は午前中牛肉集めを行って昼前に終了。昼食後に戻って行き夜までには迎賓館に戻る予定だ。
豚肉は想定より少し多く集まった。牛肉も問題なく集まるだろう。ああ、少し多めに集めて侍従長さんに渡すのも良いかもしれない。見送りに来てくれた事だし、お裾分けをしないとね。




